韓国では近年、忘年会のことを「送年会」というようになった。忘年会は日本的概念で日本語なので愛国主義で国産化を図った結果だ。それでも年末に一同集まって一杯というのは日本文化だから、送年会と言い換えても旧正月の年末にはやらない。
必ず新暦(太陽暦)の年末にやるから、韓国人にとっては日本の影響を受けた比較的新しい文化というわけだ。忘年会―送年会の季節は“爆弾酒”の季節でもある。ビールにウイスキーを混ぜて一気飲みする爆弾酒はメイド・イン・コリアで、この韓国文化は近年、日本にも輸出されている。
しかし歳をとるとあれはこたえる。最近はできるだけ避けるようにしているが、忘年会をはじめ集まりがあると、自分一人だけ飲まないというわけにはいかない。先日もさる国会議員との席でそういう場面があった。
選挙情勢を語ろうと日本の記者数人で招いたのだ。最後は結局、爆弾酒となったが、その際、くだんの国会議員がふところからおもむろに取り出して見せてくれたのが「ソメク資格証」。いわば「爆弾酒資格証」である。
顔写真付きの立派なプラチナ・カードで運転免許証みたいになっている。「ソメク資格証を取得したことを証明する」と書かれ英語でも「SOJU&BEER LICENSE」とある。聞くと酒造メーカーの「ハイト眞露」が去るイベントの際、お遊びPRとして発行したものという。
ビール(ハイト)と焼酎(眞露)を売っている会社なので、焼酎(ソジュ)とビール(メクチュ)の「ソメク」で爆弾酒を作って大いに飲んで下さいというわけだ。爆弾酒も最近はウイスキーに代わって安い焼酎を使った「ソメク型」が流行っている。爆弾酒の大衆化である。
この「爆弾酒資格証」には感動した。翌日、早速、「ハイト眞露株式会社」に電話し「自分もぜひ、ほしい。爆弾酒が始まった80年代初めから三十年以上、飲んできたのだから資格十分だろう」というと「イベントは夏でもう終わった」といいながらも、快くOKしてくれた。顔写真など必要データを送ると数日後、カードが届いた。感謝、感激である。
「この“資格認定証”を持っている日本人、いや外国人はぼく一人じゃないかな」と大いに悦に入り、機会があるごとに見せびらかしている今日このごろです。しかし「ソメク資格証」を自慢しているのだから飲まないわけにはいかない。この年末は実につらい。
爆弾酒の草分け派にいわせると、ウイスキーの代わりに焼酎は本来は邪道だ。焼酎では軍人文化として始まった爆弾酒に本来つきまとっていた、権力臭ないし権威主義が失われるからだ。したがって焼酎を使った「ソメク爆弾酒」は民主化の産物というわけだ。時代の流れでこれも仕方ないか。
くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者、産経新聞ソウル支局長を経て、現在、ソウル駐在特別記者兼論説委員。