先日、ある新聞記事(毎日新聞7日付「余禄」)が気になった。ソウルで行われた国際会議で最も注目されたのは、フランスの39歳の女性閣僚フルール・ペルラン氏。彼女は韓国で生後間もなく道端に置き去りにされて、海外養子としてフランスの夫妻に育てられた。また釜山生まれの双子姉妹が米、仏の養親に育てられ、双子であることも知らずにいたが、20年以上を経て二人の縁は劇的につながったという。
韓国からの海外養子は、韓国戦争の孤児を米国などに送ったことに始まる。それを韓国の重い課題だと指摘した。
それは戦争孤児だけの話ではない。韓国人が捨てた子供が海外で成功して有名人になったら歓迎するという話は、世界のどこにでもある現象である。
私は欧州を旅行した時、いたるところで韓国出身の孤児の話を耳にした。私の友人の作家、故崔炳殷氏のストックホルムの自宅で長い話を聞いた。彼はヨーロッパの孤児をもって、韓国との架け橋を作る夢の小説を書いた。
また私の友人、世界的に著名な宗教学者でありイギリス在住のアメリカ人と、イギリス人の夫妻は、韓国から二人の孤児を養子にして立派に育てあげて「イギリス紳士」とした。あわせて韓国伝統的な愛犬バンディターも「イギリス紳士犬」になって天寿を全うした。
私は、今は成人となったその子供たちの話を聞きながら、なぜ韓国には中国でのような残留孤児を育てた話はないのか、韓国社会の問題点を考えた。
戦争孤児と違って入養児童の90%が未婚の母の子であることがより大きい問題である。韓国政府は「世界最大の自殺国」、「海外養子縁組が多い国」から脱皮しようとしており、主に経済的対策を取っている。
問題の核心は、韓国国内で養子縁組が出来ないことにある。未婚の母から多くの養子を量産する結果、不遇な人々が多い社会を作ることから、ホルト児童福祉会が縁組などを支援するようになり長い年月が経つ。私の妻も、韓国でその支援活動を行ったことがある。
この問題は古くて新しい。1920年創刊号の「朝鮮」(朝鮮総督府)に掲載されている小田幹治郎の「朝鮮の姓について」を読書会で読んで、創始改名の意図を察知した。朝鮮の姓は血縁、日本の氏は家門であり、基本的に異なること、特に寡婦が戸主になる時に姓が変わるということの問題点が指摘されていた。さらに、「異姓不養」(姓が異なる間では養子ができない)という鉄則があり、いま問題のシングルマザーの話もある。
男系優先、男子選好思想はまだ強く底流している(拙稿「韓国人の名前の文化人類学的考察」『名前と社会』、早稲田大学出版部)。その問題は今も続いている。女性大統領に男系中心の血縁意識の改革を、是非成し遂げてくださるように提言したい。
チェ・ギルソン 1940年韓国・京畿道楊州生まれ。ソウル大学校卒、筑波大学文学博士(社会人類学)。陸軍士官学校教官、広島大学教授を経て現在は東亜大学・東アジア文化研究所所長、広島大学名誉教授。