タケノコが美味しい季節になった。あの独特の香りと歯応えがたまらない。タケノコご飯に天ぷらや酢の物にして日本の味を満喫している。実は韓国に長期間滞在していて一番困ったのがタケノコ。街のスーパーにはほとんど見当たらなかった。
「韓国人はタケノコ食べないの?」
私の質問に地元の友人は怪訝な顔で答えた。
「あれはパンダの食べ物じゃないの?」
調べてみると、韓国でも全羅地方では栽培されるが、ほとんどが日本に輸出されているようで、国内市場にはあまり出回らないらしい。
一度、市場の片隅で大きめのタケノコを数本見つけたので意気揚々と持ち帰り、一部は点数稼ぎに上司の奥さんへ差し入れ、残りは茹でて食べようとしたが 、とても固くて歯が立たなかった。ほとんど竹だった。上司の奥さんもさぞ困ったと思うが、怖くて聞けなかった。
日本と韓国の食文化は良く似ているが、日本では普通の食材が韓国では見つけるのに苦労するものも多い。タケノコ以外では山芋。スーパーにも時々売ってはいるが、泥のついたままラップでしっかりと包んであって値段はバカ高い。買う人はほとんどいないのでいつまでも残っている。当然、古くなる。韓国の一般家庭ではあまりポピュラーではないようだ。もっとも、最近はかなり出回っているとは聞いたが。
なぜか山芋の隣にはいつもレンコンが並んでいた。色、形が似ていてよく見ないと区別できない。韓国では同類と見られているのかな?
ゴボウもあまり人気がないようで、山芋みたいにグルグル巻きにされて目立たない場所で冷遇されていた。兄弟分の人参に比べてひどい差別待遇だ。
タケノコ、山芋、レンコン、ゴボウに共通しているものは 、いずれも地味な色合いで、原色や派手な色彩が好まれる韓国には不向きなのかな?単なる食文化の違いだろうけど。
全く見当たらないのがオクラ。ネバネバ・シャキシャキの食感が好きだが、どこにも売っていない。ソウル市内の居酒屋「つくし」のママさんが自宅栽培のオクラのおひたしを出してくれた時は感激した。
キムパブ(海苔巻き)は韓国人の大好きな大衆メニューの一つで、単身生活の私の貴重な栄養源でもあった。ただ、日本では不可欠のカンピョウが入っておらず、代わりにドカーンと存在感を示している真っ黄色のタンムジ(たくあん)が私はどうも苦手だった。
一度、店のアジュンマ(中年女性)に、「タンムジ抜きで・・」と言いかけたら、「このおっさん、何言うとんの?」といった顔つきでキッと睨まれたので、止むなくそのまま買って、食べる前にソーッと抜き取ったものだ。あのアジュンマも怖かったな。
おおにし・けんいち 福井県生まれ。83―87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月新・韓国日商岩井理事。09年10月より韓国TASETO専務理事。2011年9月よりマッカン・ジャパン代表。