夫婦別姓を認めない民法の規定が違憲かどうかが争われた訴訟で、東京地裁は5月29日、「夫婦が別姓でいることは、憲法で保障された権利ではない」と原告の請求を退けた。
韓国は夫婦別姓を伝統としていて結婚しても姓は変わらない。子供は出生時に夫の戸籍に入り、夫の姓を名乗るのだが、妻は生家の姓のまま一生を過ごす。近代的で民主的な戸籍制度だと思われがちだが、実は女性は「仮り腹」、夫の家系には入れないといった儒教的思想から生まれたもので父系血統優先に基づく。
別姓を勝ち取るために非婚を貫き、ペーパー離婚を敢行するたたかいを通して法制化に弾みをつけようとする日本女性たちとは違って、私たちは入れてもらえなかった結果である。夫婦別姓、言葉の響きは同じだけれど、それぞれの国の女たちの歴史や生活はさまざまだ。夫婦別姓に複雑な思いを抱いているのは私だけではないだろう。
私は三つの姓を使っている。子供たちの学校への連絡は夫の姓、私のアイデンティティーを証明するためには結婚前の姓、社会的な活動の場では生まれた時に付けてもらった姓を使っている。結婚前に家族全員が日本人との養子縁組で帰化をしていたので日本姓であったが、結婚後に国籍を離脱して韓国籍に戻って今の姓で生活している。
私のマンションの住人はすべて日本人なので、表札をみて、当初は「内縁の妻?」と勘繰った人もいたようだ。夫と八歳も年が離れていて私はどちらかというとツクリが童顔なので、晩年はよく誤解された。そんな時、夫は「後妻です」と初対面の人を煙に巻いたりしたものだ。特に最晩年は白髪で生来の覇気もなくなり杖をついての病院通いが多かったので、「後妻です」の出番も多くなっていた。しかし夫婦別姓制反対派が主張しているように、夫婦別々の名前だから家族の絆が弱まり、やがては家庭が崩壊し社会に混乱を招くということはない。別姓ぐらいで家庭が崩壊するなら、その家庭は同姓でもうまくいかないのではないかと私は思う。
近年女性の社会進出が進み、家族の形態も多様化して、女性の側が夫の姓を名乗ることで損失を被るケースも少なくない。妻も夫も元の姓のままでもいいし、状況によってはどちらか一方の姓を称してもいい、そんなゆるやかな選択肢があってもいいのではないかと思う。
海外では別姓選択の法改正が進み、先進国でその仕組みがないのは日本のみだそうだ。アジアでも多くの国が、従来の制度を改めているという。世界の夫婦の姓のあり方をみれば、今回の違憲判決は時代に逆行しているとしか思えない。
韓国は2005年の民法改正により、戸主制が廃止され、子は父親の姓を継承することを原則とするが、母親の姓を継承するとの合意がなされた場合は継承が可能となった。
オ・ムンジャ 在日2世。同人誌「鳳仙花」創刊(1991年~2005年まで代表)。現在在日女性文学誌「地に舟をこげ」編集委員。著書に「パンソリに思い秘めるとき」(学生社)など。