韓国でも最近、アユ(鮎)を養殖しているのか、先ごろ地方都市の村起こしイベントで「アユ祭り」というのがあって、「アユの手つかみ」が人気だったという。調べてみると慶尚北道の奉化(ボンファ)郡で、今年が十五回目というから随分以前からやっていたようだ。
奉化というのは洛東江の上流にあたる。さらに溯った最上流は天然モノの「ヨルモゴ(満州マス)」のポイントでよく釣りに出かけたが、「アユ祭り」とは知らなかった。冬場には江原道で「ヤマメ祭り」や「マス祭り」もあって人気だ。地方自治体が観光資源としてそんなイベントを競ってやっているのだが、「アユ祭り」には夏休みの家族連れが繰り出し大盛況だったという。
ちなみにアユは韓国語で「ウノ」という。「銀魚」のハングル読みだがなかなか気の利いたネーミングである。韓国でも慶尚南道と全羅南道の境を流れる南部の蟾津江や、東海岸の江原道の南大川などが主産地で、季節には川沿いの店でアユを食わせる。ぶつ切りの刺身やテンプラが主で料理方法がいまいちだが、近年は日本の影響で塩焼きも出る。
アユ釣りの方も近年、盛んで、日本流の「友釣り」でよくやっている。
しかしアユ料理となるとやはり日本は抜群だ。アユの香りをうまく生かす。先日、東京に行った際、出版社の編集者に案内された銀座の小料理屋のアユは絶品だった。店のシェフの手作りといっていたが、開いたアユの一夜干しをサッとあぶったもので、実に美味だった。アユはやはり香りをはじめ素材を生かさなくちゃあ。
アユで思い出したのだが以前、江原道の南大川でアユを食べた際、地元の人の話で不思議なことを耳にした。なぜかアユが放射能除去に効果があるといって、昔、広島や長崎の被爆者のために干モノにしてたくさん送った(輸出?)というのだ。筆者は記者の駆け出しは一九六〇年代の広島だが、被爆者治療のいわゆる民間療法としもそんな話は聞いたことがない。日本では韓国以上にアユが獲れるので、その話が事実なら日本の方でまず話題になっているはずだが。この話、今なおナゾのままだ。
韓国ではこのところ、これも不思議なのだが、福島原発の放射能問題に日本以上に敏感で、日本からの輸入水産物への拒否反応が広がっている。先年、政権まで揺さぶった米国産輸入牛肉への拒否騒ぎを思い出すが、ついでに「アユの干モノ」のエピソードも思い出したというわけだ。
放射能シンドロームへの便乗(?)で、知り合いの韓国人が「放射能に効く」といって新開発の「カンファン(薑黄)茶」なるものを持ち込んできた。ウコンに似た植物の根が原料でカレーの黄色い成分と似たものとか。「福島放射能に怯える(!)日本人に」という。ご関心の向きはご連絡ください。
くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者、産経新聞ソウル支局長を経て、現在、ソウル駐在特別記者兼論説委員。