韓国ミュージカル『Summer Snow』がやってきた。私は尼崎公演の初日に行った(東京公演は31日から赤坂ACTシアター)。主人公ジンハ役は、今をときめくK-POP界のアイドル達、ソンミン(Super Junior)、ソンジェ(超新星)、ソン・スンヒョン(FTISLAND)のトリプルキャストで、当日はソンミンが登場。
だから場内はソンミンのファンとおぼしき女性がいっぱいで、彼の一挙手一投足を見逃すまいとの熱気に溢れていた。もちろんソンミンも、さすがと思わせる歌と、キレのいいダンス、熱のこもった演技で、その期待にしっかり応えてくれていた。彼をお目当てに来た人たちは、みな大満足だったに違いない。
両親を事故で失い、自転車店を営んで弟妹の面倒を見るジンハ。やがて美しい娘ソルヒに恋をする。ストーリーの中で彼の存在はとても大きい。でも、ソルヒや恋のライバルのユンジェ、またジンハの弟ジュンや妹ウンハ、ウンハの恋人スヒョン 、ボンピルおじさんにいたるまでの役柄も、一人一人が悩み多い人生を、それでも懸命に生きようとしている点において、それぞれがきらきらと美しく輝いて見えたし、心洗われるような気持ちにもさせられた。
俳優各人の演技、歌、ダンスの力量がこの感動を支えているわけで、その多彩な味わいのハーモニーに感じ入りつつ、もう一つ、舞台美術の素晴らしさにも目をみはる思いがした。空間を豊かに用い、映像を巧みに組み合わせることで、舞台は自由に広がり、観る私達の心もいっぱいになる。本当に贅沢な経験だった。
さて、ジンハが恋をしたソルヒには心臓の病気があり、命を救うためには心臓移植手術しかないと告げられる。臓器移植というテーマについては、扱い方に不満も残ったが、少なくとも提供者の自発的な意志と無償の善意、愛によって臓器移植が行われるとき、それは素晴らしい奇跡を生むということを、教えてくれていたのだろう。
東洋的な思想の伝統の中で、臓器移植への抵抗があり、移植医療の進展に時間を要したというのは、韓国も日本と同様だったようだ。近年、ようやくドナーの意思表示をするカードを人々が持つようになり始めたというのも、似た状況だ。そういえば、この『Summer Snow』という作品は、もともと2000年に日本で放映されたテレビドラマを韓国でリメイクしたものだ。韓国人の心に、家族愛や純愛というテーマはぴたりとくるものだったろう。そして、臓器移植について歩を進めようとしている点も共感されたのではないだろうか。それが今、日本でも再び感動を呼んでいる 。
政治的には心配になることも多い昨今の日韓関係だが、こんなふうに文化交流を通して、人々の心の奥底で価値観を共有し、理解し合うことの意味は決して小さくはないはずだ。
カン・ヨンジャ 1956年大阪生まれ。在日2.5世。高校非常勤講師。著書に『私には浅田先生がいた』(三一書房、在日女性文芸協会主催第1回「賞・地に舟をこげ」受賞作)。