次々と韓国ミュージカルが来日し、韓流と言えばドラマ、映画、K-POPと思っていたら、いえいえミュージカルですよ!という事態になっているらしい。今回、初日公演を観せていただいたミュージカル『宮(クン)』(21日まで、大阪シアターBRAVA!)は、韓国にもしもまだ王室が存在していたら?という虚構の世界の物語。日本でも先にドラマで人気を博した作品だが、ミュージカルとしてもリメイクを重ねながらすでに4年目の公演。原作が少女漫画で、華麗なる宮殿が舞台で、そこで繰り広げられる人間模様、恋愛と嫉妬と権力争いと 、なんだか宝塚の『ベルばら』を思い出してしまう。つまりこれは、ヒットが約束された夢とロマンの物語なのだ。
幕が開いて、観客は宮殿の中へと誘(いざな)われるが、主人公の皇太子はなかなか現れない。少女たちの憧れの的、超イケメン、美貌の皇太子・・・・期待をあおって引っぱるけれど、なあんだがっかり、だったらどうしよう?でも心配は無用。登場したソンモ〔超新星〕はまさに美男子で、もったいぶった演出にも負けない甘いマスクに納得する。(皇太子役は他にフン〔U-KISS〕、チェ・ミンファン〔FTISLAND〕のトリプルキャスト)
シンデレラストーリーのヒロイン、チェギョン(この日はクァク・ソンヨン)も可愛かったし、ライバル役(同チャン・ユジュン、キソプ〔U-KISS〕の日)もカッコよくて、ハスキーな声が胸に響いた。歌や演技がしっかりしているので安心して夢の世界に入っていける。
さらに脇を固める俳優たちが、一人一人光っていて、存在に重みを感じさせていた。それがこの作品の評価を安定したものにしているのだろう。なかでも恵政宮役ムン・ジウォンの美女・悪女ぶりは印象に残った。また主人公役を含め、彼らが時折日本語を使って台詞を言ってくれるのにも感心した。そのたびに場内は沸く。たくましさを感じさせるほどのサービス精神だ。
さて、見所はやはりK-POPスターたちが歌い踊る迫力のシーンだろう。目の前での、息づかいまで聞き取りながらの歌と踊りには心を動かされる。
私としてはまた、チェギョンがイマドキの女子高生の「ギャル語」を駆使して、歌い踊る場面がとても楽しかった。韓国語が十分にわからないのがもどかしいが、パンフレットの解説を読むと、きっと韓国でも年配者には通じない若者言葉のオンパレードなのだということは十分に伝わってくる。こんな言葉たち、とても辞書では調べられないだろう。
この歌にせよスカートの下のジャージーにせよ、まさにチェギョンは現代っ娘(こ)の象徴だ。その彼女の明るさ、素直さ、優しさが、古いしきたりを変え、閉ざされた人の心を溶かしていく。現代っ娘賛歌のようなこの作品を観て、若い世代に明日への希望を託す、韓国の元気さの一端に触れた思いだった。
カン・ヨンジャ 1956年大阪生まれ。在日2.5世。高校非常勤講師。著書に『私には浅田先生がいた』(三一書房、在日女性文芸協会主催第1回「賞・地に舟をこげ」受賞作)。