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2014/02/21

<随筆>◇土下座◇広島大学 崔 吉城 名誉教授

 最近韓国の映画やドラマを見ていると細かいところで日本の影響が表れ、気になる。有名な作家の古川薫氏との対談の時、戦前の映画「陸軍」で出征の前夜に父親の肩を揉んであげるシーンを見て、韓国の習慣からは異様であると話した。男の肩は神聖であり子供や女性が触るものではないと言われて育ってきた私にとっては異様な光景であったからである。

 しかし、その後多くの韓国映画やドラマで肩を揉んであげるシーンが出ていたので古川先生がどのように受け止めておられるのか、気になるところである。

 もう一つ気になるのが最近の韓国ドラマや映画で、韓国人の男が頻繁に膝を折って土下座して謝るシーンである。実生活とは異なる光景であり、私には異様な光景である。私の今日までの人生において膝を折って礼をすることはあっても土下座して謝るということはなかった。

 土下座は「降服」か「罰」を受ける時のしぐさであり、それ以外はありえない行動である。韓国ではそれほど謝罪の言葉や文化はなかった。日本の「すみません」「もうしわけありません」に対応する言葉が韓国語にないわけではないが、日本のような謝罪文化はない。

 土下座するほどの過ちを犯すことなく高齢者になっている私であるが、振り返ってみると私にも土下座すべく危機があった。私は物を簡単に捨てる習性がある。しかし日本人の家内はなかなか物を捨てられないタイプである。私が判断して家内の物を捨てたことがある。私が捨てたものを彼女が探しているのを知って、私は困ってしまった。これは私のミス、大失敗、結婚後一度も夫婦喧嘩をしていないという自慢話が無効になりそうであった。どう謝罪するか、心理的に苦境に追い込まれた。

 結局、私が間違ったことを謝り、無事に収まった。その位でも韓国の男性として例外的、精いっぱいであると思う。しかし最近の韓国の男性が頻繁に土下座するのは日本のドラマなどの影響だろうか。

 西洋社会には勝利宣言とともに敗北宣言がある。英語圏にはアポロジー文化があるように、日本には優れた謝罪文化があると私は思っている。日本でよく目にするのは会社などで間違った時、長いデスクを並べて責任者が頭を下げてお詫びをする画像である。高級レストランでのメニューの偽装問題でも、数多くの謝罪の映像をみた。その日本が、なぜ植民地や戦争と侵略に対しては謝罪をケチるのだろうか。いろいろなことがあってもアジアの平和維持が難しいのは、日本が逆に原爆などによって被害国に変身したからではないだろう。今、日本の植民地支配と戦争被害者に対しては土下座をするくらい、心から謝罪すべきだと思う。

 日本は世界から、多くの人から好かれる国である。しかし広くアジアには反日文化圏がある。アジアに向けて、より謙遜、寛容が必要だ。領土が大きい中国より、もっと大きい大国心が必要である。


  チェ・ギルソン 1940年韓国・京畿道楊州生まれ。ソウル大学校卒、筑波大学文学博士(社会人類学)。陸軍士官学校教官、広島大学教授を経て現在は東亜大学・東アジア文化研究所所長、広島大学名誉教授。