韓国で春を告げる花はケナリというのが相場だろう。細枝のかん木で道端の生垣などによく見かける。若葉が出る前に小さな黄色の花が咲く。密生したかん木なので、黄色い花で山盛りという感じになる。春先にこの花が咲くといつも思い出すことがある。七〇年代のソウル語学留学のおり、先生が冗談(?)で教えてくれたケナリの語源にまつわる話だ。つまり「ケナリの語源は鳥のカナリアだ」というのだ。
カナリアが黄色い色をしているからだが、昔、西洋人が韓国を訪れた際、春先でケナリがたくさん咲いているのを見て「おお、キャナリ!」と感動の声を上げた。これを聞いた韓国人たちが「あの花は“キャナリ”というのか!」といって後にみんな「ケナリ」というようになったというのだ。
このケナリとカナリアの連想ゲームは実に面白い。日本ではおそらく中国語起源だろう「レンギョウ(連翹)」と言っているが、この音感ではぜんぜん可愛くない。ついでにもうひとつ思い出した。先生がいうには、韓国では金鉱で金がたくさん出たり埋蔵金のような宝物がざくざく出てくることを「ノダジ」というが、これは英語の「ノータッチ」がなまったものだというのだ。
これも昔、金鉱の開発にきて金を掘り当てた西洋人が鉱山に縄張りし、近よってくる地元の連中に対ししきりに「ノータッチ!」と言ったことが語源というのだ。やたら「ノータッチ!ノータッチ!」といわれるので韓国人たちは「そうか、金が続々出てくる大当たりのことを“ノダジ”というんだな 」と思って韓国語になったというのである。学問的検証とは関係ないが、これまた何かほほえましい。語学留学などというのは、肝心のことは覚えずこんなことばかり記憶しているからいいかげんなものである。
昨年、米国の副大統領が韓国にやってきて朴槿惠大統領と会った際、「bet」という言葉が話題になった。「賭け」を意味する言葉で「韓国が米国に反対する方にbetするのはいい“賭け”じゃないよ」と言って中国に擦り寄る韓国を皮肉ったのだが、その後、今度は朴槿惠大統領が新年の記者会見で南北関係について「統一はテバク」と言って話題になっている。
betに似て「テバク」も俗な言葉だ。大当たりや大もうけ、大漁・豊作などでよく使う。そこで大統領官邸当局は「テバク」を英語では「ボナンザ(bonanza)」と訳した。スロットマシーンなどゲームあるいは賭けで数字がぴったりはまって「大当たり!」というあの感じである。
統一をマイナスではなくプラス効果という前向きで考えようという発想転換論だが、ただ「テバク」にはどこか賭けみたいなニュアンスが付いて回るので落ち着かない。南北統一が「ノダジ」のような“ヤマ師”の世界になっては困ります。
くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者、産経新聞ソウル支局長を経て、現在、ソウル駐在特別記者兼論説委員。