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2014/05/23

<随筆>◇たけのこご飯◇ 康 玲子さん

 春まっ盛り。体も心も、ほぐれて伸びていく気がする。桜も美しいが、野に咲く小さな雑草の花たちも一つ一つがいとおしい。さてこの季節、必ず作るのが筍(たけのこ)料理。これだけは本当に旬(しゅん)にしか味わえない。お吸い物や若竹煮、天ぷらにしてもおいしい。みじん切りにして挽肉や椎茸、人参と一緒に中華風の炒め物を作り、レタス包みにすることも。でも何と言っても、家族に一番人気なのは筍ご飯だ。

 子どもの頃、私は神戸にいた。お使いを頼まれて筍を買いに行くと、八百屋さんは器に張った水の中から、すでに皮もむかれた水煮の筍を引き上げてくれた。筍とは、そんなものだと思っていた。

 今の私は、京都は西山のふもとに住んでいる。ここは筍の名産地。引っ越してきてから、ご近所の方からいただくなどして、掘ったままの皮付きの筍を料理するようになった。最初のうちは、それこそ料理の本と首っ引きで・・・・。

 大きな鍋を用意し、米ぬかや米のとぎ汁を使って、皮のままの筍をゆでる。少し手間と時間がかかるけれど、難しいことではない。ゆであがった筍をむくと、鎧のような皮とは似つかない、つややかで柔らかそうな竹の赤ちゃんが現れる。姫皮の部分も大切に残す。厚い皮の下に閉じこめられていた竹の香りがキッチンにひろがる。まだ何を作り上げたのでもないのに、こんなに幸せな気持ちになれる。この馥郁とした春の香り、やはり水煮で売っている筍では味わえない。

 さてこの筍を二つに割り、水でよく洗ったら、細かく刻み、筍ご飯の具の準備に取りかかる。筍の風味を消してしまわないように、だしは昆布と鰹でていねいに取る。そして鶏肉や油揚げとともに、みりんと薄口醤油で軽く煮含めるのだ。これを、洗って水切りした米と合わせて、少しの塩、薄口醤油、みりんも加え、あとは普通に炊くだけ。この時、水加減を見るために、下味をつけた具は、いったんザルに揚げる。ザルで切った煮汁にだしも加え、米に応じた水位を確かめてから具を戻したらOKだ。

 炊飯器がふつふつと言うと、家中に筍ご飯の香りが漂い始める。帰ってきた娘が玄関で「うわ、この匂い!やった!今日は筍ご飯!?」と叫んで入ってくる。

 もちろん私は韓国料理が好きで、韓国へ行けば何を食べてもおいしいし、初めて食べるものでも何かしら懐かしいと思う人間だ。もっともっと韓国料理について知りたいとも、上手になりたいとも願っている。でも一方で、日本で生まれ、育ち、そして今のこの地に住んで25年。

 毎年毎年筍を料理していると、やはり自分の住んでいる土地で採れたものをいただく歓びを思わずにはいられない。

 これからも、私は春になったら筍ご飯を作るだろう。ふたつ目のふるさととも、こんなふうにつながっているのだな、などと思いながら。それも私なのだな、と思いながら。


  カン・ヨンジャ 1956年大阪生まれ。在日2.5世。高校非常勤講師。著書に『私には浅田先生がいた』(三一書房、在日女性文芸協会主催第1回「賞・地に舟をこげ」受賞作)。