韓国を代表する酒は何か、日本からのお客によく聞かれるがいつも「そうですねえ 」と口ごもる。韓国で最も好まれている酒は「ソジュ(焼酎)」だけれど、どこかアルコールと水を混ぜて甘みをつけただけという、香りがなくていかにも人工的な感じだ。韓国を代表させるにはいささか気恥ずかしい。
では「マッコリ」はというと、濁酒では素朴過ぎていけません。田舎の農家の手造り酒みたいで、その場でぐい飲みするのはいいが、じっくり味わう酒ではない。酒として洗練された雰囲気がまったくない。また「百歳酒」などという日本の養命酒を薄味にしたような酒とか、土俗酒といって、極度に度数の高い焼酎や漢方風に香りをつけた地方産の酒などがあるが、地方出張のお土産風で普遍性がない。
ところがついに最近、「国民酒(クンミンジュ)」が登場した。先日、さる豚肉の焼肉屋で食っていると、隣のテーブルに座ったサラリーマン風の一行が注文をとりにきたオバちゃんに「お酒は何を?」と聞かれて「国民酒だよ!」というではないか。はて?と思ってオバちゃんがもってきたのを見ると、普通のビール3本に焼酎1本ではないか。不思議に思ってこちらの連れの韓国人に「あれが何で“国民酒”なんやね?」と聞いたところ「つまり焼酎とビールで爆弾酒を作って飲もうというわけだが、爆弾酒のことを最近は“国民酒”といってふざけているんですよ」という。
これには「なるほど!」とヒザを打って感動(?)した。韓国を代表する酒とは焼酎でもマッコリでもなく「爆弾酒」だったのだ。それも爆弾酒の原型である「ウイスキーにビール」ではなく、最近の「焼酎にビール」という大衆化された「ソメク」のことである。
ちなみに「ソメク」とは「ソジュ(焼酎)」と「メクチュ(麦酒=ビール)」の合成語である。
連れの話だと今、ビールと焼酎を一緒に生産・販売している大手の酒造メーカー「ハイト真露」がセールス作戦で「ソメク」を「国民酒」といってPRしているのかもしれないとのことだったが、確認はしていない。テレビのコマーシャルでは見かけないので、口コミ作戦かもしれない。それにしても爆弾酒を「国民酒」とは言いえて妙で実に素晴らしい。爆弾酒は原産地は必ずしも韓国ではないが、今や韓国を代表する酒文化として内外で名を馳せているのだからピッタシではないか。筆者もこれから聞かれればそう答えたい。
ところで「国民酒」というなら、ビールではなくてマッコリに焼酎で爆弾酒を作ってはどうか?との声が出そうだ。はい、それもありまして以前、経験したことがある。ところが残念なことに、マッコリでは味も姿もカルピスみたいで迫力の無いことはなはだしかったことを覚えています。
くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者、産経新聞ソウル支局長を経て、現在、ソウル駐在特別記者兼論説委員。