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2021/04/16

<随筆>◇渋沢栄一のドラマ◇  広島大学 崔 吉城 名誉教授

 渋沢栄一の顔写真が新しい紙幣に載ると発表されてから、急に注目されるようになった。NHKでドラマが放映されている。韓国では日本の近代化、資本主義による朝鮮侵略の中心人物だと猛批判されていた。ドラマより面白い本がある。その一家の勤勉と遊蕩の興亡が描かれている佐野眞一氏の著書『渋沢三代』の家門の栄光の話がそれである。栄一が作り上げた栄光を息子が失くし、孫の敬三が作り直したという大河ドラマのような本である。つまり祖が作り上げた家門の栄光を息子が放蕩して、孫が徳を積み上げた貴重な教訓の話である。

 渋沢敬三は人格者であり財力も見識もあり、日本民俗学會を創始した人である。栄一がパリからの帰りに、最新のムービーカメラを買ってきて敬三にプレゼントした。敬三はそれを以て貴重な映像を多く残している。民俗学者が残した映像として貴重なものである。それらの資料を多く所蔵している神奈川大学でシンポジウムが行われた。そこで私は渋沢家の子孫たちにお会いしたことがある。

 敬三が撮影した映像の中で特に私が関心を持ったのは1936年の夏、朝鮮半島の蔚山と多島海の映像で、植民地朝鮮での唯一の記録映像である。拙著『映像が語る植民地朝鮮』(東亜大学東アジア文化研究所、民俗苑)などでその時代の生活ぶりを垣間見ることができるその映像を紹介した。後にその映像は『甦る民俗映像』(岩波書店)に収められた。

この映像には二つのエピソードがある。一つは蔚山達里での映像の画面から、私は麦わら帽子に巻いたリボンが映画のフィルムであることに気が付いた。私は子供の時にフィルムのリボンを巻いた帽子をかぶったことがあり、映っている画像を観察した覚えもある。

 当時の映画・映像のフィルムは切り、リボンとして再利用して売ったので保存されていない。それが韓国では映画フィルムが多く残っていないことを物語る証明になる。その話を拙著に書き、時々講演もした。それを聞いたある教授が自分で見つけたように語るのを聞いて、驚きと悔しさを隠せなかった。

 もう一つのエピソードは蔚山大学で招請講演をしたことがあり、1936年の映像を見せながら話をした。高齢者たちは「蔚山達里」(宮本:14分)を視聴して「これは偽作である」と言い出した。日本人が朝鮮植民地の成功を見せかけようと作った映画だと言われた。驚いた。

 翌日、朝のテレビ全国ニュースでは私が日本から偽作を持ってきて見せたと流れ、さらに驚いた。また比較民俗学会で上映するように依頼され、見せたが、有名な民俗学者が講演で「やはりこの映像は偽作だ」と言いきった。再度驚いた。あ然、失望の極みだった。


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