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2021/08/13

<随筆>◇姜徳相先生と「列島の中のアリラン」展◇ 呉 文子さん

 姜徳相(カンドクサン)先生が89年の生涯を閉じられた。姜徳相先生は関東大震災朝鮮人虐殺の研究で先駆的な役割を果たされ、89年には一橋大学社会学部教授に就任、在日韓国人初の国立大教授として話題を集めた。2005年には在日韓人歴史資料館の初代館長に就任され多くの業績を残された。

 いまも記憶によみがえるのは、2012年、在日韓人歴史資料館の開設7周年を記念して、ソウル歴史博物館で「列島の中のアリラン-在日同胞の過去、現在、そして未来」展が開かれたときのこと。この特別展の目的は、本国の人たちに在日100年の歴史や文化、生活を知らせ、若い世代を中心に在日に対する認識を新たにしてもらうことにあった。加えて夫が亡くなった年でもあり、追悼も兼ねるとのことだったので、かなりの資料を提供した。

 「活躍する在日同胞」のコーナーでは、文学、スポーツ、芸術・文化、教育界で活躍する人たちの写真などが展示されていて、特に力道山や張本選手、バイオリン製作者の陳昌鉉は特別な扱いで紹介されていた。向かい側には、朴慶植、姜在彦、李進熙、姜尚中など教育界で活躍する人たちの著書が展示されていた。在日の歴史家たちの語る貴重な記録映像も流れていたが、気付かずに通り過ぎてしまったところ、友人が「李進熙先生の映像が流れている」と呼びにきてくれたので視聴することができた。映像を通してたどる在日100年の軌跡は、本国の人たちが在日の戦前戦後の苦闘の歴史を知るまたとない素晴らしい企画だった。

 文学界のコーナーでは李恢成や李良枝の芥川賞受賞作品、金石範や梁石日など文壇で活躍している作家たちの話題作が数冊展示されていた。隣のケースには季刊『三千里』や同人誌『鳳仙花』、在日女性文学誌『地に舟をこげ』が並べられていた。しかしこれらの雑誌がどういう目的のもとに発刊されたのかについての説明がなく、それにもまして悔やまれたのは、在日女性についてのコーナーがなかったこと。いまにして思えば『鳳仙花』や『地に舟をこげ』の展示は、当時としては格別な扱いだったと姜徳相先生の配慮に感謝するばかりだが…。

 しかし創刊の目的や在日女性の置かれている状況についての解説があれば、在日女性の生き様や現状を伝えるまたとない機会となったはずと悔やまれたのも事実。

 姜徳相先生は、在日の歴史と韓国の歴史は「不即不離」の関係だ、どんな道を共に歩んだかということを分かってほしいと、ご挨拶されたが、在日100年の苦闘の歴史を本国の人たちは「不即不離」の関係だと思ってくれただろうか…。


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