5月の中頃、思い立って更級日記のこの条の場所を歩いてみたく、足柄古道へ。父の任地である下総から都上りする途中、一四才の娘の記憶に残った幻想的なシーン。
「足柄山といふは、 いと恐ろしげなり。麓に宿りたるに、月もなく暗き夜の、闇に惑ふやうなるに、遊び三人、いづくよりともなくいで来たり。五十ばかりなるひとり、二十ばかりなる、十四、五なるとあり。庵の前に傘をさして据ゑたり。 髪いと長く、額いとよくかかりて、色白くきたなげなくて、 人々あはれがるに、声すべて似るものなく、空に澄みのぼりてめでたく歌を歌ふ。人々いみじうあはれがりて、 見る目のいときたなげなきに、(歌い終わると)さばかり恐ろしげなる山中に立ちて行くを、人々飽かず思ひて皆泣くを、幼き心地には、ましてこの宿りを立たむことさへ飽かず覚ゆ」
つづきは本紙へ