経営破綻し政府と債権金融団の管理下にある大宇自動車が米GM(ゼネラル・モーターズ)に売却され、年内に新生・GM大宇自動車として再出発する見通しだ。5月28日にソウル入りしたGMの買収交渉団が30日に大宇自動車売却事務局と主債権銀行の産業銀行に買収提案書を提出し、大きなトラブルさえなければ今度こそ懸案の大宇自動車の売却は確実とみられている。6月4日から第3国で債権団と本格的な買収交渉に入り、順調にいけば6月中旬にMOU(了解覚書)を締結、9月までに本契約、年内新法人設立というスケジュールになる。
GMが提出した買収提案書は非公開のため具体的内容は明らかでないが、大きく①買収価格②買収対象③交渉日程④交渉方法の4点からなる。最大の争点は買収価格だが、これは昨年の競争入札で提示されたフォードの70億㌦、GMの50億㌦を大きく下回る20億㌦台になると推測されている。
GM側は大宇自動車の再建には2―3年かかり、追加投資が必要になるとの理由をあげているが、債権団としては「たたき売りだ」との批判を避けるためにも少しでも価格を引き上げたい考えだ。
第2の売却対象で大きな争点となっているのが年産50万台の能力をもつ主力の富坪工場の扱いだ。GM側は設備が老朽化しているので、今回の売却から切り離したい意向だが、一括売却を目指している債権団としては雇用や現地下請け企業の経営問題もあるので、何としても引き受けてもらいたい。GM側がこれを受け入れる場合、買収価格はさらに引き下げられる可能性が高い。
交渉方法と関連して、今回は秘密主義をとっている。これは昨年のフォードとの交渉でフォード関係者の一挙手一投足が露出され、債権団のまだ統一されていない意見までが全体意見のように報道され、交渉の障害になったという教訓がある。政界からの注文もあれこれあれ、交渉遅延の原因になった。今回はこのような状況をあらかじめ遮断し、速戦即決で妥結にもっていくため第3国を交渉場所にした。その場所はGMの地域本部がある香港とみられている。
大宇自動車は12兆7000億ウオンに達する金融負債をかかえており、その大部分は帳消しになり、債権団が実際に手に入れる現金は多くを期待できない模様だ。これに対して、「これでいいのか」とすでに国内では論議を呼んでいる。
雇用不安を抱える大宇自動車労働組合は売却に反対だが、世論調査では大半が売却やむなしと賛成している。だが、国営企業にすべきという意見も16%ほどあった。研究者の間にも、破産寸前の仏ルノーを国営企業にして世界的に競争力をもつ自動車メーカーに再建した例をあげ国有化は検討価値があるとの見解がある。
この国有化論の背景には、安値売却による国富の流出論がある。その先例として、昨年4月にルノーに売却されたサムスン自動車の売却価格は6200億ウオンだった。ちなみに、サムスン自をつくるのに5兆ウオンかかった。
売却価格の引き上げと雇用をそのまま引き継いでもらうことは債権団側の最重要な交渉課題だが、99年以上延び延びになっている売却をこれ以上遅らせるわけにいかないという至上命題がある。現状では、できるだけGM側から譲歩を引き出し早期売却を成功させる選択肢しかなさそうだ。