新しい21世紀に韓国はどういう国づくりをするのか。景気が後退しているが、経済改革の手を緩めることはできない。グローバル時代に生き残れる強固な経済体質をつくらなければならないからだ。元国務総理で著名な経済学者である李賢宰氏とソウル大学経済学部長などを歴任した財閥改革に詳しい金宗ヒョン・新潟経営大学教授に韓国経済の進路について話し合ってもらった。
――経済構造改革が最終段階に入っているが、どう評価するか。
金 IMF危機を契機に3年がかりで進められてきた構造改革は、指標の上では一定のの成果をあげたが、実質的には期待はずれの面が少なくない。構造改革は広範囲に進められているのであるが、その究極的な目標は銀行や企業が健全な体質になり、グローバル化時代に生き残れる競争力をもつようにすることにある。従って、このような目標をどれほど達成したかが構造改革の評価基準といえる。このような基準からみて構造改革の実をあげることは今後の課題であるといえる。
李 いまは新しい21世紀が始まり、一つの時代の転換期にある。構造改革が流行語のようになっているが、これは視点を変えてみるとグローバルスタンダード(世界標準)に基づく企業経営、経済運営が強いられていることだ。実際は米国式に沿っていかないと落後するし、国際的な協力も得られない。問題はその新しい方式に慣れていないことから来るいろいろな副作用が起こっていることだ。
構造改革は韓日ともに推進すべき重大課題であるが、国民経済の体質、企業経営の体質を言葉だけでなく本当に強化しなければならない。IMF危機までは国際環境が良かったこともあり、禅問答のように企業体質強化、技術革新とか言ってポスターや標語を貼り、実際はやらなくても先進国の政治的配慮などもあり、それなりに通じてきた面がある。
しかし、いまは政治的同盟関係と経済的な関係が全然違うものになっており、経済的には先進国、途上国を問わず同じ世界標準、相互主義に沿わないとサバイバルできない時代だ。従って、構造改革を政府も財界も本腰を入れて続行、世界標準に最も近い体制、仕組みを作っていかなければならない。
――構造改革の評価は、海外に比べ国内の点数が辛い。国策研究機関のKDIの評価も「落第点」と辛らつだった。改革は本気に進められているのか。
金 構造改革は60、70年代の開発時代に形成され機能してきた韓国経済システムの改革という意味をもっている。80年代以降、韓国経済が開発段階を経過し、国際kジェイ財環境も変化するなかで、政府の規制緩和や自由化、そして企業の経営体質の努力も部分的には進められてきたが、それらは根本的な改革ではなかった。いま進められている構造改革は、その間なすべくしてなし得なかった経済体質の根本的改革という意味をもつものといえる。
IMF危機のなかで、98―99年の第1次改革はドラスティックに進められた。経済危機のショックとそれを克服しなければならないという緊張したムードのなかで、改革は急激に進められ、そのための国民的合意もできていた。その端的な例として、「労・使・政委員会」による労働法改正に向けての合意をあげることができるだろう。しかし、このような形で進められた改革もかっくも3年を経た今日、実質的効果を上げるに至っていない。
むしろ、経済危機からの脱却が早々と宣言されるなかで、改革主体の改革意識も薄れているように思われる。しかし、いまは第2段階の改革が進められていることから知れるように、銀行や企業の「不実問題」はなおも存在しており、これらに対する信用もなかなか回復せず、そのことが国際経済の動きとあいまって韓国経済に対する不安要因ともなっている。
21世紀を迎えて韓国経済はより高い段階に相応するシステムづくりが必要になっている。先進経済に発展するための枠組みを作る必要があるのである。それは企業が経営体質を根本的に改善し自らの力で競争力を強化しながら21世紀に臨めるような枠組みである。
李 政府も経済界も経済改革の切実さを認識している。これまで経験がなかったので企業で試行錯誤もあると思うが、政府は厳正なガイドランドを出して、企業の行動様式を導いて、そのあとは市場に任せるべきではないか。財閥に対していろいろ議論があるが、経済力の集中と所得の集中は少し違うと思う。日本でも大銀行が合併しているが、これは規模での競争力を強めるものである。この経済力の集中を悪く利用すると所得の集中になるが、競争力を強めるため経済力集中を利用すれば肯定的な役割をすると思う。
確かに、財閥企業の支配体系を効率的に整える必要がある。例えば会計の透明性、グループ内での取引制限、相互支払い保証の制限とか財務構造の強化、2.3世に対する相続制限とかいろいろある。これを実践的にやっていけばいい。そうしないと生きていけないのが現実だ。
金 グローバリゼーションが進むなかで、これに対応しうるシステムづくりが必要であり、そのためには改革主体が「改革しなければならない」という強い意識をもち持続的に努力する必要がある。改革の推進において政府の役割が大きいことはいうまでもない。政府は「政治論理」ではなく、あくまでも「経済論理」によって一貫した改革方向を提示するとともに、決定したことはこれを厳正に執行する必要がある。失業問題など改革に伴う苦痛の緩和に最大限取り組むことも政府がなすべきことである。
――グローバル化の流れの中で、韓日間には自由貿易論議も起こっているが。
李 FTA(自由貿易協定)の問題は、日本の学者や政府の立場を聞くと積極的な印象を受けた。私たちはこう考える。ゾレン(当為)としての行くべき道と、必ず経ていかなければならない道を一緒に考えていかなければならない。このまま貿易自由化に入ればどうなるだろう。韓国は日本への輸入依存度が高いので、今の貿易逆調がもっと拡大する。自由化の前提として、貿易逆調を是正できるシステムを両国の話し合いで構築して貿易自由化の問題が話されるべきだ。このまま拡大しては、是正どころかどうにもならなくなる。これには日本の協力が必要だ。
――未来の国作りはどうするのか。
金 21世紀にはグローバリゼーションが国の経済のみならず、政治、社会、文化にも大きなインパクトを与えるようになるだろう。それは国民経済中心の時代とは異なり、経済活動が国境の枠を超えて世界的な広がりで行われる変革と協調の時代であり、その意味で新たなチャレンジの時代でもある。
新たな時代にチャレンジするためには、自らのものをしっかりと持って改革をしながら発展させていかなければならない。今日進められている改革も新たな発展のための基礎づくりである。そのような改革は、経済分野のみでなく政治、社会の分野でも必要であろう。新しい産業としては韓国でもIT革命が重要視されており、この分野での発展が期待される。それとともに、これまで韓国経済を支えてきた既存の産業を新たな環境に対応させながら発展させることも重要である。
産業的発展は、南北関係改善の拡大ひいては統一ということも視野に入れて考える必要がある。
李 20世紀の反省をひと言でいうと、過去1世紀のあいだのものすごい科学技術の発展で、効率向上の大革命が起こった。例えば、韓国ではチゲ(背負い子)とかホミ(鎌)は数千年使ってきた。なくなったのはほんの20年ほど前だ。科学技術の発展で文明の利器がたくさんでき、効率が高くなった。しかし、その裏面で人間疎外、人間性の喪失がものすごく進んだ。新世紀は人間性の回復に焦点をあてて国をづくりを進めなければ、人類の将来も危ぶまれる。過敏な悲観論かもしれないが、人類自体が危機に瀕するのではないかと心配になる。高度情報化社会に内包された大きな課題だ。
また、グローバリゼーションというが、それだけで競争力を持つかといえばそうではない。グローバリゼーションにローカリゼーションをプラスしたグローカリゼーションがうまくいかないと、本当の競争力を保てないと思う。米国と同じ方式を韓国でやっても米国についていけない。韓国としてのローカリゼーションが何か付加されること、つまり独自の文化などを生かすグローカリゼーションを進める必要があると思う。
これまでは競争に勝つことが最優先だったが、これからの世界はそれだけでは逆に世界から疎外され競争力がなくなってしまう。むしろ競争と協力を調整することで、国際社会から疎外されることを防ぐ時代ではないか。過去の歴史は、他国、他企業を滅ぼして自分が生き残るという体制であったが、それではかえって世界から疎外されてしまう。お金を儲けたら、そのお金をまた協力のために投資するような姿勢が必要であり、これが本当の「win-win」(共に勝つ)ではないか。
また職場に関しては「生涯職場」から、どういう仕事をするのかという「生涯職業」の時代へと移行していくと思う。また、就業から創業の時代に向かっている。さらに、「ブルーカラー」が「ホワイトカラー」に移る時代があったが、これからは「ゴールドカラー」の時代になる。「ゴールドカラー」とは知識産業を中心にベンチャ-企業、証券金融専門家、コンサルタント、データベースのマーケティング専門家、サイバービジネスなどが活躍する時代になるだろう。その対応がうまくできるか先行していく国だけが栄えるのではないか。
さらに今後は、自分自身ですべてを解決する経済の運営体制からアウトソーシングという外部資源を内部資源化する形態がもっと進まなければならない。また、すべての企業は公開経営に踏み切ることが求められるだろう。
――国づくりと関連、南北統一も念頭に入れる必要があるが。
金 国内の統合が新しい国づくりをするうえで非常に大事だ。20世紀は政治的に激動を経て、政治的民主化は達成されたが、まだ多くの矛盾をかかえている。労使関係も協調的というよりは対立的な構図が強い。最近は貧富の格差問題が大きくなっており、一部層では疎外されていると感じている。やはり、21世紀は国内での協調と共存が必要であり、そのため経済正義を実践すべきだろう。併せて歪んだ経済システムの是正が大事だ。
国づくりの展望として南北関係も欠かせないが、昨年は歴史的な南北頂上会談が実現、南北の接近が肌で感じられるほどの進展があった。さし当たって、南北関係を共存できる方向にどう進めるかが重大課題だ。
李 国土統一の切実さはなかなか日本の方にはわからないと思うが、終戦後のある文献によると、日本もドイツのように多数の国により分割占領される話しがあった。米国のノーベル経済学賞を受賞したサミュエルソンのような学者はある雑誌で、「民族統一がこの時代に重要なものなのか。ともに栄えたらいいのではないか」と言っていた。しかし、韓民族は単一民族であり、統一の切実さは絶対的だ。そういう意味で南北頂上会談は画期的であり、今後どのように話し合いが進展するか分からないが、南北頂上会談それ自体が大きな意味をもった歴史的な事件だったと評価したい。
しかし、これから統一に向けて南北双方の接近はそう簡単ではないだろう。すでに分断時代は半世紀を超え、36年にわたった日帝時代よりも長い。歴史が一回りするような長い期間がすぎた。そしてどういう問題が出てきたかというと、文化的な異質化がものすごく進んだ。ある意味で、日本や米国以上の異質化であり、それが一番心配だ。なぜなら文化的に同質でないとその思考方式が同じにならない。思考方式が違えば、同じ基礎に立って話し合いが進まない。離散家族再会事業も行われているが、人的・文化的な交流、それに資源とか産業構造に照らしての相互補完的な相互交流など、政治的に鋭敏な問題でない分野から積極的に進めれば文化の異質化も克服されるのではないか。こういう努力がもっとも大事である。
国際的な環境としては、日中米ロなど関係諸国が韓国統一に本当に協力してほしいと呼びかけたい。国内では「統一を喜ぶ国はひとつもない」という極端な話もあるが。いろいろな政治的な意味から出ている話だが、それでは前進しない。南北統一のため是非協力を得たいと思う。
イ・ヒョンジェ 1929年生まれ。ソウル大総長、国務総理、韓国精神文化院長、韓国学術院長などを歴任。ソウル大名誉教授。
キム・ジョンヒョン 1931年生まれ。韓国経済史学会会長、ソウル大経済学部長などを経て新潟経営大教授。茶山経済学賞受賞。