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2002/11/01

<総合>韓国 チリと初のFTA妥結

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 韓国とチリのFTA(Free Trade Agreement、自由貿易協定)交渉が3年2カ月ぶりに妥結、来週までに本協定を締結する見通しだ。締結されれば、両国の国会承認などを経て来年上半期(1―6月)には発効することになる。韓国にとって初のFTAはどんな意味をもつのか。今後数年内に実施が予想される日本やメキシコとのFTA交渉にどんな影響を及ぼすのか検証してみた。


 ◆例外多い内容

 チリとのFTA交渉は年内妥結が至上命令だった。現政権下での実績をつくる必要があるからだ。だが交渉は難航、決裂寸前までいったが土壇場で合意点を見出した。このためか、合意案は関税撤廃除外品目を含め、金融開放を4年後に再論するなど例外扱いが多い内容となった。FTA交渉の難しさを改めて実感させるものだった。FTAは原則的に該当国間の貿易を阻害するすべての障壁を除去する協定であり、両国市場統合の効果をもたらすものだ。この点に照らしてみて今回の合意は「穴だらけの協定」との指摘もある。

 合意案の骨子をみると、まず韓国で生産する1万1170品目中、21品目を協定から除外し、チリが生産する5854品目中の55品目を関税撤廃の例外扱いにする。また、協定発効後即時に関税が撤廃される韓国の輸出品は自動車、携帯電話、パソコンなど2300品目で、石油化学製品、自動車部品など2100品目は5年内に撤廃される。残り品目は段階的に関税を撤廃する。最長で16年かかる。しかし、チリ輸入市場をほぼ独占する洗濯機、冷蔵庫は関税撤廃から除外された。

 一方、チリの主力輸出品であるコメ、リンゴ、梨の関税撤廃も例外扱いとなった。また、桃、キウイ、甘柿、豚肉などはFTA発効後、毎年均等比率で関税を引き下げ、10年内に撤廃する。特に、ブドウは韓国の非生産期(11―4月)に限り関税を引き下げる季節関税を10年間適用する。

 また、政府調達分野に韓国企業が参入できるようになった。チリの年間政府調達規模は20億―30億㌦。最近、社会関節資本拡充のための大型プロジェクト推進中であり、韓国企業は期待を抱いている。
交渉の争点となり最後まで決着がつかなかった金融サービス・投資問題は、4年後に最論議することになった。当初韓国側は即時開放をめざしたが、チリ側の延期要求を全面的にのむ結果となった。ちなみにチリはEU(欧州連合)との協定では金融市場を開放している。韓国側はEUと違い全面的な農業開放が困難だったので強硬に市場開放を要求すれば決裂するしかなかったという。


 ◆輸出増大効果

 協定が発効すればチリとの間で年間8億4100万㌦(輸出6億3600万㌦、輸入2億500万㌦)の貿易増大効果が見込める。昨年の12億7000万㌦の7割近い増大だ。もっともこのような効果がでるにしても、若干時間はかかるが、92年にメキシコがチリとFTA締結後、4年間で貿易規模を5倍増の9億3000万㌦に増やしている点からみても可能性は高い。

 チリ向けの最大輸出品は自動車と携帯電話。特に自動車はチリの輸入車市場で日本の36%に次ぐ26%を占めており、関税が撤廃されれば日本を抑えシェアア1位を占めるのは確実だ。昨年の自動車輸出実績は1億4000万㌦で、携帯電話と合わせると2億2000万㌦を超す。

 冷蔵庫と洗濯機は対象から除外されたが、韓国家電3社のブランドイメージは確立されており、関税率も6―7%台なので輸出に心配はないとみている。ちなみに、チリに進出している韓国企業はサムスン電子、LG電子、大宇電子、起亜自動車など12社にのぼる。


 ◆アキレス腱

 今回のFTA交渉で農業分野が韓国側のやっかいな問題だった。交渉開始から3年以上もたったのも、国内農家保護をどうするかで時間がかかった。コメやリンゴ、関税撤廃から除外できたが、トウガラシ、ニンニクなどもWTOのニューラウンド交渉後に先延ばしすることに成功した。だが、すべてを対象外にするわけにはいかず、特に現在46%の関税が課されているブドウ栽培農家1283戸は、今後10年間、毎年10%関税を引き下げなければならず影響は大きい。

 チリは世界でも有数な果実輸出国であり、特にブドウは世界市場の24%を占め2位、キウイは17%占め3位のシェアを誇るなど圧倒的な競争力がある。その他果実部門での対策が大きな課題になっている。


 ◆批判論も続出

 最初のFTA対象にチリを選んだのは、なぜか。

 「チリとのFTAは経済的な実益よりは、日本、メキシコなどの今後の後続FTA交渉のノウハウ蓄積という面で大きな意味あるという指摘がある」「チリとの貿易規模はそれほど大きくなく、また地理的にも地球の裏側に当たり、産業構造も大きく違うため協定を結びやすいと判断した」という。だが、結果をみれば、交渉、妥結まで3年以上も要した。

 今回の交渉に対し、「例外扱いが多すぎる。金融も除かれている。関税自由協定の水準にすぎないではないか。それも中途半端に過ぎない」「チリの輸入市場で洗濯機は90%、冷蔵庫は49%、エアコンも37%のシャアを占め頂点に達している。仮に関税を撤廃してもそれ程の効果はない。逆に農業被害はおおきすぎる」といった批判も多い。

 日本、メキシコ以外にも中国や、シンガポール、タイ、イスラエル、ニュージーランドなどが対象にあがっているが、ほとんど進展をみていない。チリとの交渉経験をどういかすかが問われることになる。