キムチに欠かせないニンニク。いま韓国でこの生活必需品をめぐって、大きな論議が起こっている。生産者価格がおよそ10分の1の中国産が来年から輸入自由化され、韓国市場に大量に流入するからだ。当然、韓国産が大打撃を受けるため、農民団体は猛反発、国際ルールで認められたセーフガード(緊急輸入制限)の4年延長を求めたが、貿易委員会はこれを受け入れなかった。政府がすでに5年間1兆8000億ウオンにのぼる緊急支援策を発表しており、緊急輸入制限延長の根拠を失ったという理由だ。だが、「この政府対策で韓国農家の3分の1を占める50万ニンニク農家を守れるだろうか。結局はかつて養蚕農家が壊滅したように衰退の道をたどるしかない」という悲観論が多い。
もともと中国産ニンニクは韓国の脅威だったが、韓中通商交渉で一応の決着をみた。だが、来年から中国産ニンニクを輸入自由化するという合意事実は隠されてきた。それが最近暴露され大問題になり、外交問題に発展することを恐れた政府は、反発が予想されるニンニク農家対策として急きょ支援策をまとめて発表した。
その支援策とは、輸入自由化による被害を減らし、国産ニンニクの競争力を高めるため2007年までの5年間に1兆8000億ウオンを投資と融資の形で支援するとう「ニンニク産業総合対策」だ。対策の柱は価格調節のための契約栽培拡大(現在の4万7000㌧を来年には11万㌧に)で、年間生産量の4分の1ほどを農協と山地組合で買い入れる計画だ。
ニンニク価格下落に備え最低価格買い入れ財源も大幅に増やしている。これら価格支持のため1兆2525億ウオンを投入される。また、機械化や研究開発など生産性向上のための支援も強化する。長期的には機械化や高品質化で競争力を高めてほしいということだだが、ニンニク農家はほとんど零細であり、他作物への転作奨励も並行して行わざるを得ない。
韓国のニンニクの生産量は年間40万㌧(昨年基準)で、市場規模は4500億ウオンにのぼる。これに対して政府の支援策は年間3600億ウオンというのだから破格的だが、こうした政府支援なくしては中国産に太刀打ちできないからだ。中国の卸売価格は現在キロ当たり162ウオンで韓国産の10分にすぎない。品質も韓国産に比べて見劣りしない。50万ニンニク農家をそのまま存続させて生産性を高めれば価格は暴落、ますます苦境に陥るしかないというジレンマを抱えるが、転作が容易でないのも事実だ。
農民団体の農協中央会が、政府の支援策発表にもかかわらず、年内に終わるセーフガードを2006年末まで延長することを求めたのもニンニク農家の打撃があまりにも大きすぎると判断したからだ。
だが、農協の要請を受けて貿易委員会は会議を開いたが、「政府がニンニク農家を保護する総合対策を発表した状況では調査開始は不必要になった」という結論に達した。ちなみに、産業被害救済法の16条に「調査開始前に国内産業に深刻な被害を救済するための措置をとった場合には調査に入らない」と明記されている。
これに対して農協中央会は、「農民の意思が反映されないのは遺憾だ。全国119のニンニク主産地組合長で構成されるニンニク分科委員会を招集、抗議活動を展開する」と強く反発した。また、30日辞表を提出した金・貿易委委員長は、「貿易委がセーフガード延長のための調査開始如何を決定する前に政府が延長不可方針を明らかにし貿易委に事実上圧力を加えた」と語った。一部識者の間からも「これは中立的でなければならない貿易委員会の権能を脅かす政府の干渉だ」と批判の声が聞かれる。
政府としては、ニンニク問題で一度合意したことについて中国と再交渉するわけにはいかない立場にある。対中貿易で年間100億㌦を超える黒字を出しているのに比べニンニク輸入額は1500万㌦に過ぎないので、輸入規制を取り難いし、対抗措置として携帯電話がまた輸入禁止される報復合戦は避けたいという判断が働いた。
だが、80年代まででも先進諸国ともいえども競争力のない自国産業には手厚い保護政策をとってきた。特に、農業問題では、どの国も一律自由化とはいかない。今回の韓国のニンニク問題にしても、工業製品と比べ金額的には大きいとはいえないが、生活必需品であり生産農家数も多いという事情がある。農業専門家たちは、「政府が対策を発表したからといって問題は解決しない。長期的な将来像もデッサンした十分な検討が必要だ」と指摘している。