韓日が共催するワールドカップ(W杯)の開幕式とそれに続く開幕戦、フランス対セネガル戦を取材するため、ソウルに飛んだ。成田からの機中、それと分かる一団のフランス人サポーターが賑やかだった。息子の顔にペイントする父親も何かまくしたてていた。
ソウル中心部にはW杯参加32カ国の旗がはためいていたり、建設中のビルをおおう巨大なシートに32カ国のサッカーボールがペイントされW杯を盛り上げていたが、投宿したホテルもフランス人サポーターがやたらと目立った。フランスから巣から大応援団と大取材陣がきていると聞いていたが、なるほどと思った。さて、市庁前から地下鉄に2号線に乗り合井駅で6号線に乗り換えて、その名もワールドカップ競技場に下りる。所要時間40分ほどだ。
駅前には強大な噴水があり、大勢の若い警察官が警備にあたっていた。駅前のエスカレーターで登っていくと目の前にスタジアムが出現する。山の上にあるのかと思ったが、実は日本でいう「夢の島」のような巨大なゴミ捨て場につくられたのだった。後で友人に聞くと「このソウル西側にある上岩地区は、メタンガスが鼻をつき人の寄らないゴミ捨て場だった。それがいまではすっかり綺麗に生まれ変わった。ソウル市が掲げる<環境保護のW杯>のシンボルだ」と説明してくれた。
そういえば、スタジアムの周りは草木が植樹され、公園や広場があり、開幕式当日もいろいろなイベントや行進が行われていた。太鼓を叩きながら行進するセネガル人のサポーターにも出くわすなど、何となくなごやかな雰囲気が味わえた。
道路一つ隔てたところには、巨大なプレハブづくりの麻浦農水産物市場があり、1週間前にオープンしたコンビニがとりどりのものを揃えていた。中にはいると、釜山のチャガルチ市場のような魚売り場があり、簡単に韓国食を食べられるコーナーもあった。アツアツのスントゥブ(豆腐チゲのようなもの)を食べたが、とても美味しかった。「さすが食文化の韓国であるな」と感じ入った。
考えてみれば、わずか5年前にはIMF危機で韓国経済はどん底だった。W杯どころではなかったはずだ。、それがわずか短期間でよくぞこれだけ立派なスタジアムを建設したものだと感心した。それも「環境W杯」という立派なテーマまで体現したのだから、外国のメディアが「韓国人は厳しい環境の中で、どうして短期間でこのような偉業を達成できたのか」と驚いたのも無理はない。先日見学した済州島の西帰浦サッカースタジアムが風除けのため地下につくられたことにも感じ入ったが、テーマ、工夫があるのが素晴らしい。
世界各国から6万人を集めた開幕式では、金大中大統領が「世界平和と人類の和合の新たな時代が開かれることを期待する」と開会を宣言、小泉純一郎首相と手を取り合って高く掲げ、韓日共催を世界にアピールした。この光景は160カ国にテレビ中継されており、果たして世界数十億の人々はにどう受け止めたことだろうか。
スタンドを見ると、フランスの大応援団とセネガルの小応援団と対照的だ。国力の差があり、ソウルまで来れなかったからだが、多数の韓国人が黄色いシャツを着てセネガルチームを応援していた。双眼鏡でみれば、若者が多かった。この光景をみて、「韓国もなかなかやるな」と思わず姿勢を正した。
ボランティアの係員から記者席に先発メンバー表が配られた。それをみると、セネガル選手全員がフランスプロリーグ所属だ。一方のフランス選手の多くは自国よりイングランド、イタリア、スペインなど海外でプレーしている。また、フランスチームは、アルジェリア系のジダンをはじめガーナ、セネガル、アルメニアと完全に移民チームだ。韓国の安貞桓や日本の中田も海外でプレーしているが、サッカーは本当に民族、国境をこえていることを実感させてくれる。今回のW杯が韓日にまたがる「壮大な民族展示会」と形容した人がいたが、目の前でその光景を見てその通りだと思った。
試合結果は王者フランスを破ったセネガルの大金星。試合開始30分、高速ドリブルの金髪、ディウフが左サイド奥深くに侵入してセンタリング、GKからの跳ね返りのボールを詰めていたBディオプが押し込む。セネガルサポーターから大歓声が起こった瞬間だ。韓国各紙は1面トップで「大異変」と報じた。シュートを決めたディオプの聞きなれない名前が大見出しを飾った。セネガル大統領はこの日を祝日にした。フランスに植民地支配された歴史があるだけに、この勝利は感慨ひとしおだろう。同じ植民地化され悲哀をなめた韓国人もその心情に納得いくものだ。
アフリカ最西端の人口950万人の国。産業は農業と漁業。初めてセネガルを知った人もいることだろう。同様に世界では韓国や日本がどこになる国か知らない人もいる。世界に発信するW杯がそれだけ重要なアピールの場であることをセネガルの勝利は改めて教えてくれた。
W杯64試合。韓国ではKBS1、MBC、SBSの主要テレビ3局が全試合を放送する。もちろん無料だ。韓国政府のW杯に取り組み姿勢を示したものだろう。一方の日本は韓国とは違う。ソウルの友人は「日本では無料のNHKや無料でなぜ全試合放送しないのか」と訝った。事実、日本では楽しみの10日の韓国―米国戦も有料のスカパーに加入しないと見られない。ソウルの友人ではないが、せめて共催国の韓国の試合ぐらいは誰でも見られるように放送してほしいと思った。