ここから本文です

2002/01/25

<総合>韓国政府支援の銀行誕生させなかった本当の理由は!

 駐日韓国大使館が総合プロデューサーとなり、在日韓国民団中央本部が前面に出て設立を推進してきた「ドラゴン銀行」構想が土壇場になって挫折した。日本政府当局が、経営破たん4信組の事業譲渡先を決める競争入札で既存の信用組合に軍配をあげたのである。韓国政府の国家プロジェクトともいうべき在日銀行化計画の失敗に、関係者は大きなショックだ。だが、審判は下ってしまった。よほどのことがない限り結果が覆らない。今後は事業譲受する信組がしっかり経営基盤を固め発展することに期待をかけるべきだが、今回の選定過程をめぐって「何かおかしい」という声が聞こえてくる。特に、関西地域では日本のメディアも今回の決定には強い関心を抱いているようだが、果たして選定に問題はなかっただろうか。また、事業譲受した信組に2次破たんの恐れはないのか、在日銀行がこのまま絶たれて在日社会の将来にとってマイナスにならないのか。さまざまな角度で検証してみた。


ドラゴンの惨敗

 在日社会社会で銀行化構想が発表されて2年以上になる。最初は東京地域を中心とする在日商工人が中心になって進めた「韓日銀行」。それに対抗する形で在日韓国人信用組合協会の加盟組合メンバーが合併してつくる「韓信協銀行」構想が発表された。だが、いずれも中途挫折した。この過程で在日同胞間で主導権争いなどがあり、敵対感情も表面化した。

 だが、昨春「平和銀行」構想が発表され、それを引き継ぐ形で「ドラゴン銀行」設立へと動き始めた。今度こそ銀行が実現するだろうと見た人は多かった。

 その理由として、大きく次の5点が挙げられる。第1は韓国政府が計画を立て駐日大使館が具体的に推進した。国が動くのだから大丈夫だろうと考えて当然だろう。第2に集めた資本金の半分を政府が出すと約束した点だ。第3に民団中央本部が音頭をとって推進した。第4に8月までに資本金が167億円集まった。第5に民団中央本部を事務局に広く在日から小口の出資金を集める計画だった――などの点だ。

 株主たちも、出資金の目標170億円を下回ったが、当初はそこまで集まるかとやや疑問視していたが、韓国政府が保証するのだから問題ないと信じ巨額の出資をしたようだ。もちろん不安もあった。在日の意見が一本化されず、結果的に競争入札という形になったからだ。結果は韓国政府が支援するドラゴンの惨敗だった。入札価格がいずれもドラゴンが一番小さかったので致命傷となり、「株主がパチンコ関係に偏重している」「地元の商工人が応援していない」などの世評も大きく響いたのだろうか。二度とない銀行化のチャンスだけに、本当の理由を探る必要がある。


3信組の内情

 入札結果、関西興銀と京都商銀の事業譲渡先は近畿産業信用組合に決まり、同様に東京商銀は北東商銀、福岡商銀は熊本商銀にそれぞれ事業譲渡されることになった。これに対して金融専門家の間で、「だが、いまの段階で果たして受け皿として妥当なのか、釈然としない」という指摘がある。

 各ケース別に検証してみよう。まず関西興銀。本紙が入手した資料によると、関西興銀の資産価値を示す帳簿価格は1970億円台。価値の目減りを考慮して管財人価格はそれを当然下回る。管財人価格に近いほど公的資金の投入額は少なくなる。この点で近畿産業は絶妙の額を出した。

 当初入札価格の差が近畿産業とドラゴンとでは800億円の差もあったとされていた。つまり、近畿産業は管財人価格を上回る額を提示したのではないかと見られていた。

 だが、いざ蓋をあけてみると、実際の入札価格は1487億円で、1382億円を提示したドラゴンとの差はとの105億円しかなかった。このことの意味は、近畿産業はかなりの公的資金の目減りを最小化できたことを意味する。

 この点について在日の金融関係者は、「関西興銀の規模からして、800億円の差なら難しいにしても、100億円単位の差なら何とかできたはずだ。しかも韓国政府が全面的に支援しているのに何かおかしい」との声がある。

 近畿産業は、昨年4月までわずか1店舗の京都シティー信組が大阪商銀の事業を譲受し10倍ほどに膨れ上がってスタートしたばかりだ。それからわずか10カ月で日本最大規模の関西興銀と中堅規模の京都商銀を引き受けることになった。その引き受けは6月という。4月からのペイオフ解禁を控え、急激な肥大化で経営対応するにはかなりの無理がありそうだ。
ちなみに、兪奉植・近畿産業信組会長(京都のMKタクシー代表)は、昨年5月に大阪商銀を引き受ける経緯について、ある雑誌で近畿財務局の大森泰人・理財局長から口説かれたからだた述べている。その大森氏は現在、金融庁の総合企画局調査室長だ。

 次に東京商銀のケース。帳簿価格は606億円で、北東商銀は管財人の提示した入札価格を上回った額を提示したようだ。ドラゴンとの差は110億円近くにのぼるとみられる。管財人価格を上回るということは、公的資金投入がそれだけ少なくなるということだから、事業譲受後の経営圧迫は避けられない。

 しかも、北東商銀は昨年9月末現在の預金が283億円、貸出金232億円で預貸率が82%だが、金融機関の預金が60億円あり(うち近畿産業から20億円)、実際にはオーバーローン状態だ。

 熊本商銀については、かねてから問題を抱えていた。昨年3月現在で累積赤字が10億円に達し、同年9月末現在の出資金残高が11億円だから、実質資本はゼロに近い。

 事情通は、「数年前、金融当局から福岡商銀の事業譲受を進めていたが、金融当局から反対された経緯もある。今回管財人価格に近い額で入札に成功したが、当局がなぜ今回は許可したのか腑に落ちない」と語った。


大使館の責任

 金融問題に詳しい在日関係者は、「引き受け3信組に共通しているのは財務健全性の問題点、不透明な出資増強、不安定な資金ポジションであり、第2次破たんの危険性をかかえている」と指摘し、「金融当局は3組合とも財務健全性に問題がないと判断し、費用最小化の原則により引き受け金融機関を選定したと説明しているが、短期間に急速に肥大化した近畿産業や預貸構造に問題がある北東商銀、さらに体力に余る累積赤字を抱える金融機関を健全で問題ないといえるだろうか」疑問を投げかけた。

 総合プロデューサーの駐日大使館の責任を追及する声もある。「韓国政府が絶対できると約束し、崔相龍・駐日大使も公の席で公言してきた。さらに結果が出る10日前(昨年12月10日)に呉東煥・財経官が90%以上間違いないといっていた。いったい何の根拠があってのことだったのか。それだけ自信をもって約束した以上、日本政府の決定に対して抗議してしかるべきだが、そんな様子すらない」と関係者と在日の一部は怒っていた。

 韓国政府関係者からは、「韓国政府の大恥だ」という反応があり、来月赴任予定の趙世衡・新任大使も重大な関心を示していると伝えられている。