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2004/07/16

<総合>韓日FTAに警戒論噴出

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    韓日FTAに対して経済界から警戒論・慎重論が噴出している(写真は東京での第4回政府間交渉。上が韓国代表団、下は日本代表団)

 来年の締結をめざして韓日政府間でFTA(自由貿易協定)交渉が進められているが、韓国経済界で警戒論が表面化し出した。経済4団体の共催で13日ソウル市内のホテルで開かれた「韓日FTA大討論会」では、「国内産業保護のための補完対策なしにFTAを結べば製造業の基盤は崩壊する」という憂慮の声や、「FTAは韓国経済の高度化のため避けられない課題だが、国内産業への影響を考慮して段階的に進めるべきだ」「関税引き下げ時期を遅らせてほしい」などと速度調節を訴える声が相次いだ。

 この大討論会は、全国経済人連合会、大韓商工会議所、韓国貿易協会、中小企業協同組合中央会の経済4団体が共催。労働界からも韓国労総が参加した。

 韓日両国政府は、来月23日からの第5回交渉で関税引き下げ時期などを協議することになっており、韓国政府は来月末に品目ごとに関税引き下げを約束する商品譲許案をまとめる予定だ。

 玄明官・全経連副会長は、開会あいさつで「韓日FTAがもつ重要性にもかかわらず、一般的な認識が皮相的な水準にとどまっている」として、特に「部品、素材など脆弱部門に対する実質的補完策が樹立されなければならない」と強調した。現状のままで日本とFTAを結べば部品や素材産業は大打撃を受けるという指摘は多くの産業から聞かれた。

 「グローバル化戦略の必要性とFTA推進ロードマップ」と題する基調報告を行ったサムスン経済研究所の鄭求鉉所長は、「政治経済的効果だけでなく、現実との調和を考慮しなければならない。日本に比べ競争力が脆弱な製造業の対策を講じなければならず、交渉は2、3年かけなければならない」と主張、事実上の延長論を提起した。

 特に、自動車、電子、石油化学、機械など日本との価格競争がし烈な業界代表は、関税撤廃猶予期間の延長を訴えた。

 韓国自動車工業協会代表は、「乗用車に対する現行関税率は韓国が8%、日本はゼロなので、関税を撤廃すれば日本車の輸入は加速化するが、韓国車の対日輸出効果はほとんどない」として、FTA締結による被害を最小化し中長期的に競争力を強化する対策が必要だと主張した。

 韓国電子産業振興会代表は、「日本製に対する関税率8%が撤廃されれば、日本の輸入電子製品の国内消費者価格は12-15%引き下がると予想される。一部大企業を除き中小企業は市場から撤収するか中国に移転するしかない」と懸念を表明した。電子業界は製造・応用技術は日本と遜色のない競争力を持っているが、核心技術と部品面で劣っている。

 石油化学業界代表は、「韓日両国とも供給過剰状態であり、日本メーカーが安値攻勢でダンピング問題を引き起こしているのが現状だ。関税が引き下げられれば国内市場での日本製のシェアは急速に高まる」と憂慮。韓国労総代表は、「韓日FTAの否定的影響に対する十分な評価と中小企業など脆弱部門に対する実質的な補完対策なしに協定締結が推進されれば労働界で批准反対運動を展開する」と牽制した。

 このように韓日FTAに対する憂慮の声は少なくないが、関税撤廃に対する猶予期間延長は必ずしも多数派ではない。

 韓日FTA交渉の韓国側基礎資料として、産業研究院がまとめたFTA品目別譲許案草案がある。対外秘だが、1万余品目に対し平均4、5年の関税撤廃猶予期間を設定、対日赤字や輸入規模、輸入依存度が高い品目ほど関税引き下げ猶予期間を長くしている。

 全経連はこの草案に対し1522社を対象に調査した結果、産業研究院設定の猶予期間をもっと短縮すべきという回答が54・4%に達し、猶予期間を延長すべきは17・6%にとどまった。この実態調査で分かったのは、産業研究院が国内業界への影響を考慮して関税撤廃猶予期間を長く設定した品目ほど、技術開発が難しく、国内調達が困難であるということで、原価節減のため関税を速やかに撤廃してほしいという声となって表れれた。

◆ 解 説 ◆

 韓日貿易は今年、年間600億㌦を突破する見通しだ。輸出入の比率は、対日輸入400億㌦、対日輸出200億㌦と2対1の構図。その結果、対日赤字は200億㌦になる。

 対日赤字が近年、急速に拡大しているのは、韓国の5大輸出品の半導体、コンピューター、無線通信機器、自動車、船舶の輸出急増に原因がある。というのは、これら品目の製造に必要な半導体製造装備や電子応用機器、自動車部品、計測制御分析器などのほとんどを日本に依存しているからだ。そして、韓国の世界各国に対する輸出が増えると対日輸入が増え対日赤字が増えるという構造が、最近の輸出好調で一層深刻化するという皮肉な結果になっている。

 韓日FTAに対する産業界の懸念が高まっているのは、現状で関税をゼロにすれば対日輸入依存が高い機械・部品・素材の依存をさらに高めるだけでなく、完成品まで市場を奪われるのではないかという不安があるからだ。

 問題はこれにとどまらない。輸出上位品目ほど産業連関分析で輸入誘発係数が高く、半導体の場合は実に0・5に達する。つまり、10㌦輸出すれば5㌦輸入しなければならない。最近の「雇用なき成長」現象はこのために起こっているとされるほどだ。その輸入品の多くが日本製である。IT分野では特にその傾向が一層強い。

 機械、部品の源泉技術の開発なしには対日赤字は今後さらに増え続けるしかないとの指摘もあるが、これまで事実上無策だった。産業構造の強化のため、改めて抜本的な対策が迫られている。