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2004/06/25

<総合>金鮮一さん殺害事件・広がる衝撃波

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    23日夜、ソウル光化門でイラク武装グループによって殺害された金鮮一さんを追悼する集会が開かれた

 イラク武装勢力に拉致された金鮮一さん(34)が殺害事件の衝撃波が広がっている。盧武鉉大統領は「テロには屈しない」と3000人の追加派兵方針に変更はないことを明らかにしたが、国会でイラクへの派兵中断決議案が提出される一方、政府の危機管理能力をに問題はなかったかと検証を求める声も出ている。経済界にも緊張が走っており、主要企業はイラクはもちろん、ヨルダン、サウジアラビアなど危険地域での営業活動を大幅縮小するなど中東ビジネスは急激に萎縮し出した。特に建設業界では戦後復興事業への期待が一気にしぼんだ格好だ。政府はイラク進出企業に対し7月初めまで撤収するよう勧告令を出した。

 サムスン電子やLG電子など有力企業はすでにイラクへの出張を全面中断しており、今回の事件を契機にヨルダン、サウジなど近隣国への出張も自粛するなど中東ビジネスの見直しに入った。特にイラクではマーケティング活動や販促イベントを当分中止する一方、車両に太極旗マークなど韓国関連表示をつけないよう指示した。7月中旬から韓国軍の追加派兵が決まっており、韓国人がテロのターゲットになることを恐れての措置だ。

 イラク再建特需に期待をかけていた建設やプラント業界はともより、現地内需市場を開拓していた自動車や電子、総合商社などの企業は、新たなビジネス展開を当面あきらめるしかない状況だ。ある企業関係者は「今月末には主権が委譲されるというが、不確実な状況はいつまで続くのか分からない」と心配していた。

 サムスン電子はすでにイラク駐在員は全員現地スタッフに交代しており、サウジ、シリア、イランなど隣接国の支店駐在員に対しても「非常体制」で臨むよう指示を出した。LG電子のバクダット支社長は、「安全が最優先であり、新規開拓よりは既存の事業や取引先を維持するレベルに事業戦略を練り直している。宣伝広告は全面中止した」と明らかにした。

 自動車業界は昨年、中古車ビジネスに成功、イラクに35万台輸出した。現代自動車関係者は、「ほとんどをヨルダン経由で輸出しており、イラクとの国境閉鎖措置が強化されればダメージは甚大だ。中東全体に出張禁止令が避けられないので、ビジネスパートナーを国内に招くしかない」と語った。

 特に、建設業界の打撃は大きい。現代建設は2月末にアメリカ臨時行政処(CPA)傘下のイラク再建工事施工委員会(PMO)が発注したイラク再建事業を2億2000万ドルで受注し、中東特需が再び起こると思っていた矢先、今回の事件でその展望が狂わされた形になった。大林産業とSK建設などイラク以外の中東国家に進出している企業も、対策に苦心している。

 今回の衝撃的な結末を受け、危機管理能力を問う声があがっている。

 金鮮一さんが拉致されたのは5月31日の可能性が高い。金さんが働いていたカナ貿易の現地職員は、その時から連絡が途絶えたと述べている。また、AP通信は6月初めの金さんが登場するテープが郵送され、外交通商部に身元情報を問い合わせたが、「拉致の事実はない」と返事されたという。

 今年4月、日本人3人を拘束した武装グループは「戦士旅団」は宗教色が強い武装イラク人だった。だが、金さん殺害した「神の唯一性と聖戦」は最も危険なテロリストとされるザルカウィ氏率いる武装グループで、国際テロ集団アルカイダ系の有力組織だ。

 現在、大韓航空が仁川-ドバイ間に週2回運行しており、23日に現地に向け飛び立った飛行機(座席数261席)には161人の乗客が搭乗した。26日の便には147人が予約している。ドバイは中東で最も安全な地域とされるが、中小貿易業者がドバイを経由して中東各地でビジネスを展開している。今回のカナ貿易もその一つだが、危機管理に問題があった。

 追加派兵を決め、米英軍に次ぐ規模となっただけに、政府に総合的な危機管理対策が求められている。

◆ 盧大統領国民談話 ◆

 盧武鉉大統領は23日、国民への談話で「罪なき民間人に危害を与える行為は決して容認できない」とし、「テロを糾弾し、国際社会と協力して断固として対処していく」と述べた。

 盧大統領は沈痛な面もちで「国民の祈りと努力にも関わらず、不幸な知らせを伝えることになり遺憾に思う。個人の絶叫を思うと今も胸が締め付けられる」とした。続いて、「テロ行為は反人権行為であり、得られるものは何一つとしてない。テロで目的を達しようとしてはならない」とした。

 盧大統領は「派兵はイラクやアラブ諸国に敵対行為をするためではなく、イラクの復旧と再建のため」であり、「政府は国民の安全を守るために最善を尽くす」と強調。