北朝鮮の核実験実施の衝撃波が広がっている。北朝鮮問題に精通した専門家の多くは、今回の核実験は「核保有国」としての国際的認知の獲得を狙った賭けと見ている。米国が金融制裁を解除せず、直接対話に一切応じないことに業を煮やした末の「暴発」との見方もある。全世界を敵に回しかねないリスクを背負った中での核実験強行。国連安保理の制裁決議が迫り、北朝鮮は国際社会で自ら孤立化を深めている。太陽政策の修正を余儀なくされた韓国、核実験中止の説得に応じず面子をつぶされた形の中国など関係各国への影響は大きい。その波長を追った。
◆予兆◆ 予兆といえば確かにあった。2003年にNPT(核不拡散条約)から脱退し、監視要員を撤退させた。また、今年7月、米建国記念日にあわせるかのようにミサイルを発射した。南北間でも今年5月、北朝鮮が直前になって南北鉄道の試運転を認めなかったのと同時に、金大中・元大統領が訪朝するため日程調整まで行ったが、結局実現しなかった。これはすべて一連の流れとしてとらえることができる。
◆狙い◆ ロシアのイワノフ外相は9日、「北朝鮮は世界9番目の核保有国になった」と事実上の核保有国であることを認めた。米ロ英仏中の国連常任理事国のほか、NPT未加盟のインド、パキスタン、それに保有事実は認めていないが実際の核保有国イスラエルに次ぐものだ。
北朝鮮は今回の核実験で核保有国であることを国際社会に強引に認めさせようとした。インドやパキスタンのように、核保有を既成事実化することで米と五分の交渉が可能とみている。対米関係では「窮鼠猫を噛む」だが、逆上した猫に食い殺されないという保証はない。
北朝鮮は虚勢を張っているという見方もあったが、実際に核実験をやって見せることで北朝鮮の本気度を見せつけた。ともかく孤立を覚悟の上、生き残りの最終ラウンドの最初のカードを切ったといえる。
◆太陽政策◆ 盧武鉉大統領は、太陽政策について「再検討せざるをえない状況になった」と述べ、見直しが避けられないと認識している。9日の韓日首脳会談後の記者会談でも、「いままでのようにすべてを我慢、譲歩し、北朝鮮が何をしても受け入れるようには出来なくなった」と述べている。
だが、これは対話路線を全面放棄するものではない。10日の与野党との会合で昨年、南北首脳会談を検討していたと明らかにし、「頂上会談で何が出来るのか、新たに検討する」と述べ、金正日総書記を最後まで説得する選択肢を残した。
盧大統領はまた、歴代大統領と会合、北朝鮮の核実験への対応を協議した。太陽政策の創始者、金大中・元大統領は「南北関係は成果があった。朝米関係がうまくいかないから進展ができない」として、「韓国が制裁の先頭に立つ必要はない」と主張した。これ対して、金泳三・元大統領は、「太陽政策の廃棄宣言をし、南北協力事業は全面中断すべきだ」と強調した。
盧大統領は、13日の韓中首脳会談で太陽政策をどの程度見直すのか明らかにするもようだ。
韓明淑首相は11日の国会緊急質疑で、「金融制裁には参加するが軍事制裁には参加しないというのが韓国政府の姿勢」と明言。「国連憲章第7章41条に基づく経済・外交関連の制裁には参加するが、第7章42条の軍事制裁には参加できない」と強調した。
◆韓国世論◆ 韓国世論は現在の政府の対北朝鮮政策に対して厳しく見ている。中央日報の世論調査では、回答者の66%が現状に不安を感じており、太陽政策変更論が78%にのぼった。「韓国も核兵器を保有しなければならないか」の設問には65%が同意し、北朝鮮の核保有を現実の脅威と受け止めた。
だが、別の世論調査では、「制裁よりも対話を通じて解決を」が69・8%に達した。核武装した北朝鮮との共存やむなしの前提がある。
◆北態度◆ 北朝鮮当局は9日、核実験を実施したと発表したが、場所や規模などを明らかにしていない。10日付労働新聞は3面で比較的地味な扱い。論評なく、科学的成果を強調するのみ。社説は労働党創建61周年の記念社説を掲げているが、核実験について触れていない。これが何を意味するのか。一部核実験失敗説とも絡んで、今後を注視する必要がありそうだ。
だが、国連安保理での制裁決議が現実化するなか、北朝鮮はテレビなどを通じて、米国が臨検など強圧手段を講じるならば「宣戦布告とみなす」との強硬姿勢を明らかにした。
その一方で金永南・最高人民会議常任委員長は11日、共同通信と会見、「核実験を続けるかどうかは米国の我が国への政策に関連する」と述べ、6カ国協議の復帰についても、「米国の意思にかかっている」として復帰の用意があることを示唆した。硬軟両様の対応だ。
◆米反応◆ ブッシュ大統領は11日の記者会見で、東アジアの同盟国と米国の利益を守るため「すべての選択肢」を維持すると明らかにする一方で、「北朝鮮を攻撃する意思はない」と明言した。だが、北朝鮮と直接対話の可能性については改めて否定した。ライス国務長官は「北朝鮮は核実験を行ったことで一線を超えた」と非難しながらも、「外交の道は残されている」と6カ国協議の場での対話再起を否定しなかった。
一方、北朝鮮の核実験を許してしまったブッシュ政権の無策ぶりに対する批判の声も強まっており、クリントン政権時代の対北担当者のガルーチ氏や訪朝の経験があるウェルドン下院議員(共和党)は「対話、協議に取り組まなければならない」と北朝鮮との直接交渉を主張している。
◆日中の違い◆ 中国の王光亜・国連大使は10日、「懲罰的な措置が必要」としならも、「対応は適切なものでなければならない」として、軍事制裁につながる制裁については反対する立場をとっている。ロシアも国連の制裁決議は容認するとしても、「複雑な状況にあるすべての国に自制と忍耐を示すよう求める」との立場だ。
これに比べ、日本は強硬な姿勢をとっており、北朝鮮船舶の全面入港禁止、北朝鮮産品の全面輸入禁止など独自の制裁案を決めた。13日の正式閣議決定を経て発動する。