第8代国連事務総長に韓国の潘基文・外交通商部長官の就任が事実上決まった。9日の国連安保理(15カ国)で正式に選出、月内に開かれる国連総会で形式的な議決が行われ、正式に任命される。早々と「分断国の韓国から東アジアで初の国連事務総長に誕生」と国内世論は歓迎ムード一色。だが、国連を取り巻く課題は山積している。任期5年。来年1月から潘基文・国連事務総長が、国際社会でどんな舵取り役を果たすのか、その手腕が試されることになる。
国連安保理15カ国による4回の模擬投票で7人の候補者中、潘長官はいずれも首位に立った。2日行われた4回目の投票では、常任理事国すべてが支持し、不支持は1カ国もなかった。留保が非常任理事国1カ国あったのみだ。2位につけていたインドの候補が敗北を宣言。潘基文・国連事務総長の就任が事実上確定した。
帰趨を決めた予備投票後、英国、中国、ロシアなど常任理事国から「潘氏に期待する」との異例の歓迎コメントが相次いだ。これまで常任理事国は自らの態度を隠し続けるのが慣例だっただけに、国連関係者は驚きの目で見守っている。
実は、韓国は早くから政府をあげて「当選プロジェクト」を立案、用意周到な根回しを行っていた。政府が潘氏を候補に決めたのは、昨年10月初め。今年2月の正式出馬表明まで公表を避けて隠密裏に根回し作業をすすめていた。そうした中で昨年11月、慶州で開かれた韓米首脳会談の際、ライス・米国務長官は盧武鉉大統領に、潘長官に対する深い信頼感を示し、「私はもちろん、ブッシュ大統領が潘長官を手助けできることがあれば言ってほしい」と語った。米国からいち早く支持をとりつけることがでるシグナルだった。
潘長官とライス長官の関係は2001年秋に遡る。潘長官は当時、国連大使として韓昇洙・国連議長の秘書室長。ライス長官は大統領補佐官。潘氏はブッシュ大統領とライス氏が国連本部に訪れた際には、総会議長の使用する部屋の1室を提供する前例のない配慮をした。それ以後、両者は親交を深め、ライス長官は「本当の紳士」と潘長官を紹介した。
拒否権を有する5カ国のうち、米とともに中国もいち早く支持表明し、次いでロシアも支持。英国も傾き、米国との同盟国である点などを嫌い最後まで残ったフランスも最終的に韓国支持を決めた。今年6月、韓明淑総理に随行してシラク大統領を礼訪した際、潘長官は流暢なフランス語を披歴。シラク大統領は「潘長官は我が外相よりフランス語の実力が上のようだ」と好感を示した。そのようなこともプラスに働いたようだ。潘長官の力量がなせる技だった。
88年のソウル五輪誘致の際、韓国は巧みな作戦を展開、予想を覆して名古屋に圧勝して開催権を獲得した。今回も巧みな根回し戦略が奏功したが、国際社会での韓国ブランドの高い評価も背景にある。国連筋は、「潘氏の勝利は個人力量以外に世界的に類例のない韓国経済の成長神話と民主化の成功も大きな支えになった」と語った。
韓国は国連と切っても切れない関係がある。1948年に初の総選挙を国連監視下で行った。50年の韓国戦争の際には、国連安保理の派兵決議で国連軍が参戦、韓国を救った。国連に南北同時加盟したのは15年前の91年。大国の利害が絡む韓半島から国連事務総長が選ばれること自体、極めて注目すべきことで、韓国外交史に新地平を開いたと評価されている。国連財政貢献度で11位、PKO(国連平和維持活動)で10位と国連での影響力も小さくない。
国連事務総長になれば、紛争調停など世界的な問題に取り組まなければならない。国際テロリズムの拡散をはじめ、悪化一路の地球・文明・宗教紛争からエイズなどの病気、麻薬、環境、水資源問題など課題は山積みしている。特に、核実験予告にまで発展した北朝鮮問題の平和的解決に向けて、どのような手腕を発揮するのかが注目される。
潘長官は「期待を裏切らないように最大限努力したい。我が国の国益を伸長させ、外交の幅を広げる」と抱負を述べた。
■潘基文長官のプロフィール■
バン・ギムン 1944年忠清北道・陰城生まれ。家は貧しかったが、勉強の虫で、高校時代には「英語の神童」といわれた。高校3年の赤十字社による「学生米国訪問プログラム」に選抜され訪米、ケネディ大統領から「将来の夢は」と聞かれ、「外交官になること」と答えた。
ソウル大卒業後、70年に外務部(当時)入りし、米州局長や駐米公使、外交通商部次官、国連大使などを歴任。03年2月の盧武鉉政権発足に伴い大統領補佐官に就任。厳しい対米関係の舵取り役として、04年に外交通商部長官に就任。今年2月に次期国連事務総長に名乗りを上げた。勤勉・誠実、敵を作らず、コードフリーの異名も。どの国や部署のコード(型)にも合わせられる。