WTO(世界貿易委機関)のドーハ・ラウンド(多角的貿易交渉)の中断が宣言されたことにより、2国間のFTA(自由貿易協定)を重視する傾向が世界的に強まることが確実となった。貿易依存度の高い韓国は、この新たな事態を前にして、FTA推進にさらに拍車がかかることになりそうだ。特に政府は、韓米FTA締結へ向け全力投球する方針で、反対する国内世論説得などのため大統領直属の韓米FTA締結支援委員会の設置を決め、委員長に韓悳洙・前副総理兼財政経済部長官を起用した。
2001年11月から4年半にわたって進められてきたドーハ・ラウンドは、途上国開発をテーマに農業や鉱工業製品、サービスの自由化を通じた新たな世界貿易秩序をめざした交渉だ。
今年末の時限まで残された時間はわずか。交渉は大詰めを迎え、スイスで24日、G6閣僚会議(米国、EU、日本、インド、ブラジル、オーストラリア)が開かれた。だが、農業補助金をめぐり、米国に対して大幅な補助金削減を求める他のメンバーと、補助金削減の前に農産物の関税引き下げを求める米側の主張が真っ向から対立、決裂した。ラミーWTO事務局長は「条件が成熟し新たな転機が訪れるまで交渉を中断するほかない」と宣言した。
WTO体制の重大な危機だが、早急なドーハ・ラウンド再開は望めなくなった。
賦存資源の乏しく貿易依存度が70%に達し、銀行資金の80%を外国資金に頼っている韓国は、継続して輸出市場を確保しなければ、持続成長が不可能であるだけに、打撃は大きい。
先のソウルでの第2回韓米FTA交渉は医薬品市場開放をめぐって物別れに終わったが、農民、労働界、市民団体などの反対が強く、中心街で反対デモ隊と警察隊が衝突、「内戦状態」とする報道まであった。政府の国民向けの強力なメッセージもなく、手強い米国を相手にした韓国の交渉チームは「孤軍奮闘」の状態にあった。
加えて今回のドーハラウンドの座礁だ。こうした中、政府はFTA重視に本格的に舵をとり、まず韓米FTA締結のため支援委員会設置を決めた。同委員会は、韓米FTA情報を国民に正確に知らせ、各界の意見を収れんし、葛藤調整を図る。また、国会FTA特別委員会を支援する。メンバーは、関連部署長官、経済団体長、経済研究所長、市民団体長ら15人で構成、事務局形態で50人の職員を配置する。委員長に起用された韓悳洙氏は、青瓦台(大統領府)の韓米FTA特別補佐官も兼任する。
韓委員長は、「韓米FTA論議のための国民の指令塔の役割を担うことになった。FTAに反対する個人と団体にも委員会を開放、国民的論議の窓口になる」と語った。盧武鉉大統領は、「FTAは国家と国民全体の先進化のため絶対に必要だ。だが、対内的に国民との対話と説得のための支援システムが弱かった」として、自ら直接委員長就任を要請したという。
韓米FTA交渉は来年3月妥結をめざしているが、交渉自体が難航を予想されている。それだけに国内態勢を固める必要があった。
韓国のFTA推進状況は、チリとの間で発効しており、EFTA(欧州貿易連合)とは批准段階だ。また、米国、カナダ、インド、ASEAN(東南アジア諸国連合)と交渉中であり、共同研究を開始、本交渉準備中が中国、EU、エクアドルの3カ国・地域。このほかに日本とメキシコとは交渉が中断状態だ。米国との交渉結果がこれら各国とのFTAにも大きく影響するとみられる。