韓国と日本は、資源に乏しく、技術開発と人材の育成によって輸出を伸ばし、経済成長を続けてきた。このため両国はライバルとして、造船、自動車、電子など多くの分野でしのぎを削ってきた。しかし、グローバル時代を迎え、国際的な合従連衡が進む中、両国の産業界が手を結ぶ動きが活発化している。今後の韓日の経済協力はどうあるべきか。現状と課題などについて両国の政府関係者と財界人に討議していただいた。
◆出席者◆
日韓経済協会会長・東レ経済研究所特別顧問
飯島 英胤 氏
駐日韓国企業連合会会長・ポスコジャパン社長
張 炳 孝 氏
駐日韓国大使館・経済担当公使
朴 錫 煥 氏
外務省アジア大洋州局・日韓経済室室長
岡田 誠司 氏
司会 まず、自己紹介をかねて現在の仕事の内容と今年の抱負をお願いします。
飯島 20年ほど前に東レで韓国プロジェクトの担当になり、韓国の人々とは長いお付き合いがある。1970年代に韓国に合弁会社をつくったが、サムスン、コーロン、セハンのパートナーに恵まれ、一度も撤退とか、事業を縮小することはなかった。東レは現在、韓国で6社が事業を展開、新素材、新部材を供給している。
昨年の6月に日韓経済協会の会長と日韓産業技術協力財団の理事長を仰せつかり、責任の重さを痛感している。日韓間の貿易額は昨年780億㌦に達し、韓国の輸出に占める日本の比率は17-20%くらいになるだろう。両国の相互補完、相互依存関係がますます強まっているという実感がある。相互理解、相互信頼を高めていくには人と人との交流が何より大事で、そういう認識に立って、協会と財団の役割を強化していきたい。
韓国には何度もお邪魔しているが、韓国に行くとカクテギ(大根キムチ)、カルビ、ビビンバの3点セットを食べないと落ち着かないほどだ。
張炳孝 1997年4月、ポスコの日本現地法人PIOの東京支店長に赴任し、2003年、PIOの社長、2004年ポスコ東京支店長を経て同年10月、PIOとポスコ東京支店を統合して設立されたポスコジャパンの社長に就任した。昨年からは日本に進出している韓国企業の団体、駐日韓国企業連合会(韓企連)の会長も務めている。
昨年は、中国の需給バランスが崩れるのを欧米の在庫備蓄と原油高による中東の建設ラッシュでカバーできたが、今年は鉄鋼景気がやや悪くなりそうだ。ポスコは日本に年200万㌧弱を供給しているが、日本でのサービス水準を高め、需要基盤を安定させたい。このため、昨年は名古屋に加工センターを設立した。昨年、株式の持ち合い拡大や原料価格の共同交渉で合意した新日鉄との提携関係も強化していきたいと考えている。
韓企連の会長としては、日本には経済活動をするうえでさまざまな規制や商慣習があるので、韓国企業が日本で活動しやすいように手助けしていきたい。
朴錫煥 日本関係の仕事に携わったのは83年からで、昨年8月から経済担当公使を務めている。駐日韓国大使館勤務は2回目だ。
韓日の貿易、投資、人的交流は急速に拡大しており、今年は、両国の経済、貿易関係の一層の発展に尽くしたい。特にFTA(自由貿易協定)や貿易不均衡の是正の問題に取り組むつもりだ。
次に、東アジアの発展のためには、韓国、日本、中国の役割が重要であり、3国の協力関係が大事になる。昨年12月に北京で、韓中日の投資協定締結に向け今春から交渉を始めることに合意したが、こういった3国の協力関係強化に尽力していきたい。3番目は、韓国企業の活動支援だ。特に、韓国企業と在日同胞経済人との交流の場をつくり、協力関係が構築できたらと思っている。
岡田 外務省日韓経済室の室長をやっている。外務省には、地域経済を担当する部署として、ほかに米国経済を担当する北米2課と中国経済を担当する日中経済室があるが、この3カ国との経済が日本にとって非常に重要だということだ。
2000年から2002年まで駐韓日本大使館に勤務した。赴任2日後に歴史的な南北頂上会談があり、時代が大きく動いた時期だった。帰国後、経済局でASEM(アジア欧州会議)、アジア大洋州局で中国を担当し、昨年4月から韓国経済を担当している。
韓国経済担当になり、端的に感じたことは、中国は日中の政治関係が難しくなっても、政府間における経済の対話は粛々と続いているのに対し、韓国は政治的にぎくしゃくした関係が政府間の経済対話に影響し、止まってしまっているということだ。そんな中、異動直後に札幌で開かれた日韓経済人会議にオブザーバー参加させていただき、日韓の民間経済交流が成熟しており、日韓経済は親密だと強く感じた。
朴 いま、政治の話がでたが、2001年の教科書問題発生時には日本からの投資がバーンと落ち込み、貿易も20%くらい減少した。韓日経済は政治に何かあるたびに影響を受けてきたが、最近は投資があまり減らなくなった。それだけ民間レベルでの関係が成熟したといえるのではないか。
飯島 政治と経済は別だという見方もあるが、日本も韓国も原料を外国から輸入し、製品を輸出する経済構造を持ち、多くの国とかかわっている。そうすると、民間だけでは解決できない問題が出てくる。民間と政府が一体となって障害を取り除き、経済活動が一定のルールの基に自由にできるよう、政府がきちんとバックアップしていくことが必要だ。
日韓のビジネスは、企業同士が連携を深め、自助努力でやってきた。現在、日韓間の貿易構造をみると、日本から韓国に輸出しているものの6割強、韓国から日本に入って来ているものの3割強に関税がかかっている。この関税がFTAによってなくなれば、韓国の貿易黒字が増え、インバランスの解消にもつながる。こういう点からも、経済活動の活性化には政府の力が必要だ。
朴 政治がこじれても経済面では発展しているのだから、政治的関係が良くなれば、韓日経済はもっとよくなると思う。
岡田 日韓の関係は、日米関係と似ていて、民間の経済関係があって、それを政府レベルで制度的、法的なものを補完してきた。日米経済は、貿易摩擦などの障害を政府と民間が一体となって乗り越え、成熟した段階になってきているが、いまの日韓関係も、そういう時代に突入してきたといっていいだろう。
しかし、グローバルな視点で日韓関係をみる必要があり、台頭してくる中国の問題など、東アジアの経済発展の枠組みの中で捉えると、同じ民主主義、同じ市場経済で価値観を共有する日韓がきちんとした軸となる関係を築いていくことが重要だと強く感じる。
司会 グローバル時代を迎え、東アジアで重要な地位を占める韓日の役割が強まっている。そんななかで、ソニーとサムスン、ポスコと新日鉄に代表されるように企業間の提携が活発化しているが、今後、両国の産業協力はどうあるべきか。
朴 いまは企業の海外進出が増え、韓国企業という枠組みがなくなりつつある。ポスコなどはもう韓国企業とはいえなくなった。外国人の株式保有シェアは?
張 いま63%くらい外国人が持っている。グローバルな競争力がないと生き残れない。世界の鉄鋼生産量は、過去20年間、粗鋼ベースで7億㌧ぐらいが続いたが、95年に1億㌧未満だった中国の生産量がいまは4億㌧強に膨らみ、世界の生産量は12億㌧に拡大した。その半分近くを中国、韓国、日本が占める。
このため、この3国が世界市場に与える影響力が強い。特に心配なのは、中国の需給バランスが崩れることだ。10%くらいの中国の需給変動でも4000万㌧になり、新日鉄1社の生産量よりもはるかに多い。
司会 中国の巨大市場がどうなるかという問題があるので、鉄鋼では必然的に韓日が協力していかざるをえないということか。
張 そのとおりだ。韓日が協力して国際的M&A(企業の合併・買収)に対抗していかないと世界市場でうまく競争していけなくなる。たとえ日本の新日鉄あるいはJFEにTOB(株式公開買い付け)を仕掛けてくれば、日本の鉄鋼市場全体が崩壊する可能性がある。したがって、韓日鉄鋼業界間の共同対応は非常に意味がある。
飯島 これからは、日本でナンバーワン企業であるだけでは国際競争に勝てない。グローバル市場でどのような競争力をつけるか、新製品、技術力、コスト競争力、人材育成など、世界の中でナンバーワンをめざしていかなければならない。その中で、国内企業間の合従連衡だけでなく、利益を共有する者同士が国を超えて事業提携するグローバルな動きが出てきており、製造業だけでなく、サービス産業にも広がっている。
企業には、国際的に競争力のあるモノ作りとサービスの提供が求められており、今後、グローバルな視点での幅広い提携・協力が活発になってくるだろう。
朴 最近は、ポスコと新日鉄だけじゃなく、サムスン、LG、現代自動車など、多分野で日本の部品メーカーとの提携が拡散している。半導体、LCD(液晶)、素材分野での日本の対韓投資も活発だ。
これまでの産業協力は政府主導でやってきたが、いまは民間同士が主体になっている。政府としては、民間の提携がやりやすいように雰囲気づくりとか、環境を整えることに重点を置くべきだと思っている。これからは、ロボットなどの未来産業分野で提携していけば、韓国企業のスピーディーさと日本の緻密さを合わせ、大きなシナジー(相乗)効果が得られる。
岡田 いまや政府の役割は、企業活動のグローバル化に対し、いかにきちんとした支援システムをつくっていくかだ。90年代はWTO(国際貿易機関)という大きな枠組みのなかで企業戦略が立てられてきたが、世界の流れは、WTO体制を基礎としつつ、個別の国と国のFTAへと変わりつつある。民間の企業戦略も、この変化を見据えながら中長期的プランを立てていくことになるのではなかろうか。日韓両政府は、東アジアの中でしっかりした関係を構築し、民間の経済活動をバックアップしていくことが肝要だ。
司会 韓日の間で協力関係が進んでいるとはいえ、企業同士の競争は避けられない。サムスンが台頭してきて、日本が技術移転をしぶったり、造船で日本が韓国に追い抜かれたりし、摩擦もあるのではないか。
朴 企業は互いに利益になり、必要があれば手を結ぶと思うが。
張 自社の利益だけを優先すると、韓日企業間協力が難しくなる。ポスコと新日鉄の戦略的提携の内容では、技術開発における情報共有など、お互いに未来のための譲歩が必要だと思う。
飯島 技術移転についていえば、技術競争力というのは企業の心臓部だ。無差別に韓国に出すというのは、企業の存亡にかかわるためできない。大事なのは、国が知的財産権を保護してくれるかどうかだ。
特にハイテクな技術移転というのは難しい。日本企業が韓国と事業提携したり、合弁会社をつくったときに、提携先の会社に技術を提供しても知的財産権が守られるといったセーフティネットがあると産業の強化にもつながるだろう。知的財産権の保護を国家間で早急に結ぶ必要がある。
岡田 まさにその通りで、政府としても重要性を強く認識している。昨年秋の在韓経済担当官会議でも、韓国で活動している日本の民間企業の方々を呼んで、実際のビジネスの中でどのような問題があるのかお聞きし、その対応につき検討した。知的財産権といっても、各企業によってまちまちで、何がそれに当たるのか、どういう共通点があるのか、いろいろと調査を進めているところだ。
司会 韓日間には貿易不均衡の問題とか懸案事項があるが、全体的にみて克服すべき課題は。
朴 貿易不均衡は構造的な問題だと韓国政府も認めている。貿易額約1兆㌦のうち約3000億㌦が赤字で、ほかの国で稼いだものがほとんど日本にいってしまっている。もちろん、韓国側も部品産業を育成するなど自助努力を重ねているが、日本側にも協力してほしい。
もう一つ、投資問題がある。日本の対韓投資は累計180億㌦で、対外投資全体の2%くらいだ。もう少し増やしてほしい。
飯島 日韓間の貿易や産業活動が、相互依存、相互補完関係にあると申し上げたのは、日本のハイテク素材、部材が韓国に輸出され、韓国はそれを使って製品化し輸出している。韓国の貿易構造の中に日本の素材、部材が組み込まれているということだ。日本がOPECから石油を輸入し、貿易赤字だからけしからんといっても始まらない。
とはいうものの、昨年も日韓間の貿易で250億㌦以上の赤字が発生したとみられ、放ってはおけない。貿易赤字はグロスでみるのではなく、個別に原因を分析し、何が課題であるか把握する必要があるだろう。その上で、どうすれば韓国の情報機器、自動車、家電製品などの日本向け輸出を増やすことができるのか、韓国サイドで日本市場に対応した個別産業ごとの戦略を立て、商品開発まで含めて日韓間で話し合ってみてはどうか。
もう一つは、中小企業の問題だが、日韓間の貿易インバランスを縮小するために、14年前に日韓産業技術協力財団ができた。中小企業の育成、ビジネスチャンス、貿易チャンスの拡大、生産性向上、人材育成に取り組み、年2回の商談会を行っている。1回の商談会に両国から80社ぐらいずつ集まり、関心が高い。財団では、日韓間の事業、技術、製品などをITネットワーク化し公開する日韓経営情報センターのようなものを開設したいと考えている。
司会 駐日韓国企業連合会の調査では、日本の市場が閉鎖的で、非関税障壁が問題になったことがあるが。
張 鉄鋼に関しては、ゼロ関税で貿易上の障害はない。しかし、日本独自の商慣習など非関税障壁があり、これには不満がある。日本政府に是正を要請しても、民間レベルの問題だと取り合ってもらえない。韓国側には、ノリとかキムチ、農産物の輸入規制が大きな不満になっている。韓国国内では韓日FTAをやれば、関税がなくなっても非関税障壁があって貿易不均衡がさらに拡大するという懸念がある。
岡田 その問題は日韓FTAとも関係するわけだが、FTA交渉が2003年に始まって2004年末にストップしてしまった原因は、貿易不均衡と農産物だといわれている。だが、2004年当時とは状況が変わってきていると思う。一つは、部品・素材についての不均衡問題だが、過去2年間、為替が20%以上ウォン高になっているが、部品関税は8%くらいで、ウォンの上げ幅の方がはるかに大きい。にもかかわらず、韓国から日本への部品の輸出は20%伸びている。逆に日本から韓国への輸出は8%増くらいに収まっている。これをみると、韓国の部品産業が育ってきて成熟しているということだ。
加えて、中国の経済発展に大きな影響を受けるようになってきた。韓国が日本からの輸入を抑えても、中国から安いローテク部品が入ってくる。両国にとって必要なことは、技術移転なり、産業協力なりをして、部品産業の底上げを図り、共同で中国に対抗していくことだと思う。
朴 ひと昔前は日韓の貿易は垂直分業が主体だったが、いまは水平分業に変わった。かつて両国の輸出入品は全く違ったが、いまは韓国から日本に半導体を輸出し、日本からも半導体を買うという、まさに相互補完的な関係になっている。
司会 もう一つ、為替の問題があるが、急激なウォン高で韓国企業の対日輸出に大きな支障が出ているが、為替の影響をどう見るか。
張 2004年から3割くらいウォン高になっているが、ポスコの場合は、原料の輸入が多く、会社としては為替の影響は少ない。欧米向け輸出が多い現代自動車など輸出比重が高い企業は大きな打撃を受けているようだ。韓国の国内企業は1㌦=930-950ウォンくらいでないと赤字に陥る会社が増えるだろう。
飯島 韓国の方々に会うたびに、なぜこんなにウォン高が進んでいるのか聞いてみるが、答えがバラバラで、これといった原因がわからない。
張 日本は韓国のように輸出依存型経済で、ゼロ金利から脱出すると円高になると予想されていたが、意外に円安が続いている。原因を調べてみたが、日本は輸出で稼いだおカネを個人や法人が海外に投資し、ドルの国内流入が少ない。半面、韓国は、最近になって外国の不動産取得を許可したが、国内に流入するドルが多すぎる。また、造船業界がドル安を懸念してウォンで先に決済する先物取引が急増しており、金融機関がこれに相応するドルを外国から借り入れていることもウォン高持続の大きな要因になっている。
岡田 韓国の財政当局の為替介入時期や規模の問題もあるのではなかろうか。
司会 韓日の経済発展にとってFTAは不可欠だが、交渉が頓挫してすでに2年。今年再開されるという見方もあるが、FTA交渉の行方と打開策は。
岡田 日韓FTAは必要だという観点から、日本政府は韓国政府に再開を訴え続けてきた。先ほどもふれたが、貿易不均衡と農産物の議論で動かなくなってしまっているが、両国の補完関係を考えれば、貿易不均衡をもってFTAをやめるのではなく、むしろ、逆に推進すべきだろう。
もうひとつの農産物についていえば、日本側から正式に韓国側に数値を示したことはない。想定が一人歩きして、交渉が止まったという経緯がある。われわれは、オファーリストを交換し、個別に話し合いましょうと言っているのだが、うまくいかない。
しかし、昨年12月に政府レベルで経済、通商問題全般を話し合う日韓ハイレベル協議が4年ぶりに復活し、そこで非常によい議論ができた。こうした包括的な議論の中で日韓FTAも進展するだろう。
朴 農産物について参考までに申し上げると、韓国は2005年に日本に農林畜産物7億㌦、水産物7億㌦くらい、約14億5000万㌦を輸出している。日本の農水産物の輸入総額は約700億㌦で、韓国のシェアはわずかだ。
岡田 その数字をどうとらえるかはむずかしい。日本は農産物輸入国で、世界中から輸入しており、全体的にみれば韓国からは微々たるものになる。他方、韓国側の全体輸出に占める農水産物の割合は6%にすぎないが、そのうちの53%が日本向けだ。2番目の中国が8%くらいで、韓国からみれば、日本がダントツに大きな市場になっている。
張 農水産物が問題になっているが、鉄鋼の場合には、昨年も韓国の対日貿易赤字が40億㌦(630万㌧)に至ると予想される。より広い視野で、互いに理解し、譲歩すべきだろう。
飯島 日本の食糧安全を今後どう確保していくか、これは重要な問題だ。小麦などは9割くらいを輸入に依存している。日本は自給自足ができないので、食糧をどこからどう輸入するか、国家的戦略の一つとして重要になっている。
その中で日本の農業を強くし、海外に売ることも考えていかなくてはならない。しかし、日本の農業、水産業は国際競争力が弱く、FTAが締結されたときに、これをどう下支えしていくかが課題だ。
岡田 韓国と日本は農業問題で同じような立場にあり、かつてのウルグアイラウンドではコメ輸入阻止で共同戦線を張ったほどだ。両国とも共通の問題を抱え、相手のことがよくわかっているので、その点で今後の交渉がうまくいくことを期待している。
司会 中断のほんとうの原因があいまいになっているが、真相は?
朴 2004年11月の第6回交渉を最後に止まったが、その時点で交渉中断という考えは韓国側にはなかったし、そのあとに意見交換もした。韓国は交渉窓口が通商交渉本部に一本化されているが、日本の場合は経済産業省、農林水産省と別々になっていて複雑なことと、島根県の竹島(独島)条例案、教科書問題、靖国参拝があって、こじれてしまった。
韓国側としては、日本は製造業が強いのに、農業を保護するというのは納得がいかず、こちらの考えているレベルまで譲歩してもらわないと交渉をやっても意味がないという雰囲気が強い。
飯島 日韓とも経済界はFTAに全面的に賛成しており、あとは政治決断を待つのみと言っていい。早く政府間で再交渉をスタートさせ、妥結してほしいと思う。貿易、投資、人的交流、知的財産権とか相互認証制度まで踏み込み、弁護士、公認会計士、学生間の大学の単位取得を両国で認めるとか、それくらい高いレベルの日韓でしかできないFTAを実現すべきだ。
司会 韓国の産業界はどうみているのか。
張 業界によって温度差はあるが、最初は韓国側の損になるという認識が多かった。やはり、産業によって見方はまちまちだといえよう。
岡田 それぞれ日韓の立場の違いというものがあって、すぐに交渉再開とはいかないかもしれない。他方、日韓ハイレベル協議が中断している4年間のうちに、日韓関係はどんどん緊密化し、市場を取り巻く状況も変わってきているわけだから、経済の現況、通商環境について意見を交換していけば、おのずとFTAの必要性というのはみえてくる。もう一度お互いの立場を確認し合い、包括的に話し合っていければいいと思っている。
司会 安倍政権になって韓日関係改善の糸口が見えた。今年こそ交渉再開を期待していいのか。
岡田 まあ、いつとは言えないが、きちんともう一度話し合って、その過程で中身を議論していきたいと考えている。
朴 6回の交渉の実績があり、それを踏まえてやるので、新たに交渉を開始するのとは違う。再開されれば、大きく進展すると思う。
飯島 安倍首相が就任直後に韓国を訪問し、FTA問題についても言及している。トップ同士が話し合って信頼関係を築いていただくと、あとの仕事がやりやすくなるので、韓国も胸襟を開いて、早く新しい時代に舵を切っていただきたい。
私は、韓米FTAの行方に注目している。北朝鮮の開城工業団地でつくられた製品を韓国産と認めるかどうかなど、いろいろ難問があるようだが、これが成功すれば、日韓FTAの参考になるだろう。
飯島英胤(いいじま・ひでたね) 1935年生まれ。早稲田大学教育学部卒。59年、東洋レーヨン(現・東レ)入社。常務、専務、副社長、東レ経営研究所社長・会長を歴任。現在、同研究所特別顧問。日本バレーボール協会副会長。2006年から日韓経済協会会長、日韓産業技術協力財団理事長
朴錫煥(パク・ソクファン) 1955年、釜山生まれ。高麗大学法学部卒。79年、外務部(現・外交通商部)入り。日本、ブルガリア、中国・上海の在外大使館勤務を経て、2006年8月から駐日韓国大使館公使(経済担当)。
張炳孝(チャン・ビョンヒョ) 1953年、ソウル生まれ。延世大学行政学科卒。77年、浦項総合製鉄(現ポスコ)入社。熱延輸出室長、ポスコ東京支店長を経て2004年、ポスコジャパン社長。2006年から駐日韓国企業連合会会長。
岡田誠司(おかだ・せいじ) 1956年、東京生まれ。明治大学法学部卒。東京大学大学院修士(法学)、カナダ・カールトン大学大学院ノーマンパターソンスクール(国際関係学)修了。81年、外務省入省。駐米国、駐韓国大使館勤務などを経て2006年、外務省アジア大洋州局日韓経済室長。