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2009/01/01

<総合>新春座談会『縮む世界経済と韓日の対応』

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    世界金融危機に対する韓日の対応などについて活発な議論が展開された(中央が金時文・本紙編集局長)

 世界金融危機の影響で、今年は実体経済が貿易、雇用など大変な事態になるといわれている。そこで「縮む世界経済と韓日の対応」というタイトルで、世界経済、そして韓日両国の経済が今年どうなるか、韓国と日本はどう協力しあえばいいのか、そして中国を加えた東アジア経済が世界経済を引っ張る新たな牽引役になる可能性があるのか、世界経済克服をどうするか、などについて、4人の識者に語り合ってもらった。

◆出 席 者◆

早稲田大学商学部教授         李 洪 茂 氏
アジア経済文化研究所理事・首席研究員 笠井 信幸 氏
アジア経済研究所主任研究員      奥 田 聡 氏
大宇証券東京事務所長         呉 世 政 氏

 司会 まず各自の自己紹介から始めたい。

 奥田 学生の頃から韓国への関心はあった。一橋大学卒業後、アジア経済研究所に入所した85年から韓国研究を始めている。いまアジア動向年報の担当をしている。

 今年度は韓国のFTAについて本を書く予定だが、世界金融危機が押し寄せた影響で本を書く作業がなかなか進まない。しかし、今後の韓日関係を考える上で、韓日FTAは両国経済のために大切だし、政治・外交面から見ても韓日関係を促進させるいい契機になると思う。

 李 早稲田大学卒業後、韓国に戻って教鞭をとっていたとき、97年末の韓国経済危機を体験した。いまの日本と同じように、内定の決まっていた学生たちが次々と内定を取り消される姿を見て、本当にかわいそうだと思った。

 2年前早大に教授として迎えられ、いま教鞭をとっている。リスクマネジメント論が専門だが、今回100年に一度という金融危機が発生して、より研究を深めなければいけないと実感している。

 笠井 国際開発センターという日本政府関連の調査・研究機関に勤務し、76年に初めて韓国に行った。大学教員を経ていまはアジア経済文化研究所に所属している。韓国を30年間研究してきて思うのは、国内だけを見ていると韓国経済は70%しか理解できないということだ。海外同胞の動きを知らないと残り30%を理解することができない。その視点で海外コリアンの研究を最近始めたところだ。

 東洋経済日報に月1回の「笠井信幸の分かりやすい韓国経済講座」の連載を99年末に始め、昨年末で100回になった。

 呉 86年に韓国・大宇証券に入社し、今日にいたっている。日本に来るのは3回目。累計で14年滞在しており、国際業務をずっと担当している。東京事務所長の前は本社で国際営業部長をしていた。2002年に一度事務所を閉じたが、日本などの景気が回復していることを受けて2006年7月に再度事務所を開いた。

 いまは本社の投資銀行業務、中でもM&A業務や日韓企業への投資などの業務を日本企業、投資家に紹介するのが中心だ。大宇財閥は2000年に解体したが、大宇証券はその時に独立し、現在の大株主は政府傘下の韓国産業銀行だ。

 司会 新年を迎え、世界経済はどうなるのか。韓日両国への世界経済の影響はどうなるのか。この点を語り合ってもらいたい。

 李 アメリカ発の金融危機の原因とされている金融派生商品(CDS)を組み込んだ仕組債などは、その損失が直ぐには表面化しないが、韓国でも日本でも新年すぐに待っている決算でどう評価するのかが問題となるだろう。

 CDSは、相対(あいたい)取引で案件が個別に違っており、サブプライムローンなどの原債権の返済契約にそって長期の保証契約として締結されているものが多く、保証期間も長期であるため、すぐにはそれが負債として表面化しないからである。

 一般事業会社なども、この金融商品に投資している場合が多く、消費の落ち込みによる収益の減少とともに、多額の投資損失を出している事業会社も多い。また、1929年の世界大恐慌のときには、銀行がつぶれ、その後に企業の連鎖倒産が起きた事実がある。この金融危機をどれだけ遮断できるかが問題であり、それをうまくやらないと想像以上に厳しい状況になる。金融危機は、長期にわたって、韓日の一般事業会社にも直接・間接の影響を与えると見られるので、今年の経済はいまより悪くなる可能性がある。

 奥田 日本や韓国はアジア通貨危機などの教訓から金融機関の運用姿勢が保守的となった関係からデリバティブ商品に手を出すことが少なかったと聞いている。そのため金融危機の影響が比較的小さいといわれているが、実はそうではないことが、これから明らかになってくるということか。

 李 一部の銀行の昨年度のバランスシートを見ると日本が第一の被害者ではないかという印象を受ける。日本の政策金利はゼロに近く、国内に利回りの高い投資先がなかったので、海外投資が多かった。

 現在は、アメリカの政策金利は、ゼロ金利に近いが、従来は3~4%台であった。また、それに銀行ローンなどのCDSの保証料を上乗せした仕組債なら、 10%に近い収益率をもつハイリスク商品が作られた。高い運用利回りを求めて、これらのリスクの高い金融商品への投機的な資産運用が横行していたとみられる。

 この投機的な資産運用は、金融機関だけではなく、事業会社、大学までもが行っていたことが明らかになっている。この仕組債などは、取引所取引ではなく、相対取引であるため、時価がないので、評価損の評価がなされず、隠されている。一部の説明のように、日本の被害が少ないというのは実態と異なる。

 呉 李先生がご指摘されたCDSに関しては、リスクが少し誇張されていると考えている。リーマンの破綻後のCDS清算では、事前の想定元本が約4000億㌦と推定されていたが、金融機関などリスクの引き受け手が実際に被った損失は、業界推定で60―80億㌦にとどまった。

 元々ある元本に比べ取引額はどんどん膨らむ構造なので、想定元本に比べ損失は少ない構造なのだろう。ソフトバンクのように的確に開示してマーケットで好感された例もある。

 日本は厳しいといってもこの十数年間リストラをやってきた実績があり、企業はお金を持っている。日本の金融グループは4兆円の増資を取りあえずは自力で行っている。韓国の銀行はまだ政府資金の投入には至っていない。

 私がいる証券業は、ある業種が元気のないときは、別の業種とくっついて生存することができる。資金の流れはどの局面でも起こるもので、最近は日本企業や投資家から韓国株を買いたいという問い合わせが増えている。韓国の株はここ1年で株価が半減、ウォンが半減で実質四分の一になったためだ。

 奥田 世界経済に関する予想は今年半ばに持ち直すといわれていたのが、それが時間を追うごとに秋になり、翌年になる、というように回復の遅れが見込まれるようになっている。

 足元の景気はすでに良くないが、新春以降はもっと悪くなるといわれている。

 金融と実体経済の関係を見ると、実体経済に危機が広がり、金融部門に負担がかかり、やがては貸し倒れ、貸しはがしにつながることが懸念される。

 これは10年前の再来だ。金融業をつぶさないために韓国政府が何をやるか、金融健全化に向けて何ができるかだ。

 笠井 危機発生元のアメリカは金融、実物を問わず公的資金投入で急場を凌いでいる。

 オバマ大統領候補者は2年間で最大7000億㌦を投入、250万人の雇用創出など大規模な追加景気刺激策を検討しており、この規模はGDPの約4%に相当する。これで実物が回復・再生すると金融も救われるが、すべて解消するわけではない。

 司会 韓国では金融機関の自己資本比率が減っているし、リスク管理についても心配があるが。

 奥田 建設業のプロジェクトファイナンスの融資残高は数兆円に上るといわれ、これが焦げ付くことが心配されている。しかし、李さんがいうようなCDSの問題が顕在化した場合、そのほうが影響が大きいかもしれない。

 呉 日本の金融機関は2000年代に入って、海外業務を再び活発化したが、韓国の金融機関は2004年頃までも資本増強、内実化に余念がなく、海外に目を向ける余裕がなかったので、それが逆によかった。韓国の金融庁は金融機関の海外派生商品の保有規模も発表しており、日本に比べれば心配は少ない。

 李 デリバティブは、原資産と関係なく投機的に取引をすることもできるので、取引金額がふくらんだ。その規模がわからない。日本は、リスク認識が甘い人が多く、米国の高利回りのハイリスク商品を買いすぎた。

 韓国は、日本に比べてその被害が少ないとはいえ、ウォン高の場合に約定金額でドルが買える為替ヘッジ商品に、ウォン安の場合は、高い価格でウォンを2倍以上の金額を買う義務を負わせる(安い価格でドルを売る)条件を付けたKIKOと商品を銀行が企業に大量に販売していた被害は甚大である。被害は世界的に広がっている。銀行のモラルと監督体制の不備の責任は免れない。

 笠井 今年は実体経済がさらに厳しくなるといわれているが、各国政府の資金投入の動きがあるので、それが軌道に乗れば少し安定すると思う。ただこういう問題を引き起こした金融体制とか米国への通貨・金融依存については、各国協調でどうするかという論議になるだろう。昨年11月15日に出されたG20の「金融市場及び世界経済に関する宣言」で各国の共通認識が形成され、アクションプランで共同での実施項目で再生ロードマップが示されている。東アジアレベルでも昨年12月13日の日韓中首脳会議の結果「3国間パートナーシップに関する共同声明」と「行動計画」で初めて3カ国重合体制を明示した。このように国際協調体制確立が素早いことが今次危機の特徴だ。実体経済でいえば市場規模が少なくなったときに、韓国はどこに市場を開拓していくかという問題が生じている。これまでは新興国にマーケットを広げて成長してきたが、今後は他国と競争しながら勝負していかなければならない。そうすると対日赤字に見られるような部品・素材産業の赤字をそのままにしておいてはやっていけなくなるだろう。改めて日本市場への参入可能性や冷え込んでいる内需再生が不可欠だ。その場合、短期的な景気浮揚策も重要だが、投資・生産・雇用・消費の好循環を生み出す中期的対策を早く実施することだ。

 司会 今年後半から来年にかけて景気回復の動きが見えてくるとの意見もあるが。

 李 可能かもしれないが、そのためには隠れたものを明らかにし、処理を進めていくことが必要だ。それは難しいのではないか。米国は、不良債権などを保証専門会社が吸い上げ、それを証券化して世界にばらまいた。8割でも9割でもそれを明らかにすればいいが、それが各国協調でできるかどうかがカギとなる。

 笠井 実物経済の発展のためにどういう産業構造にするか、例えばIT再成長、環境革命、知識基盤産業などの新分野が世界的に注目されている。

 ただ韓国は97年の経済危機とは異なり、企業の負債比率は100を切り、低下しているとはいえBIS比率も二桁になっている。

 司会 危機克服に向けて、米国はニューディール政策で対応しようとしている。韓日の政策的対応はどうだろうか。

 笠井 日本は党間闘争に隠れ何をどうしたいのかが国民によく見えていない。世界経済と米国経済が調和するという「カップリング」論ではなく、発展した地域を活用するという考え方が実物経済論で出ているが、金融においては、米国中心に来たので米国への依存度が高い。日韓がこの通貨・金融システム対米依存をどう再編成していくかだ。

 呉 政治指導力という面では、日本は見えない。オバマ当選者は75%もの支持率があり、今後彼が何をやるにしても求心力があることは大きな力になるだろう。今後のさらなる金融混乱を回避するためには国家間の資金の流れを促進する良い対策をつくることが必要だ。米国は強い指導力の下で、中国・日本・ヨーロッパなどの極と話し合い、資金の流れを促進する協調政策を打ち出してくるだろう。最近はエマージング市場から先進国市場にお金が流れるという現象がすでに生じて来ており、交通整理がうまく行けば、危機は緩和されると思う。韓国について言えば、建設部門と中小企業部門が確かに弱くなっているが、政府および銀行主導で構造調整を進めることができれば、他の部門は足元の景気は悪くてもまだ体力があるので今回の危機は切り抜けられると思う。

 奥田 韓国政府は危機に対応した財政支出拡大策をいくつか打ち出している。これ自体は時宜にかなったことなのだが、手続きに手間取って実際の支出が遅れがちである。早急に事を運ばないとせっかくの財政出動も効果がどれだけ見込めるかわからなくなる。金融も大幅に緩和されたが、BIS規制遵守に汲々とする銀行にやみくもに資金を出しても、末端まで資金がうまく回らない。ウォン安も今のところ輸出増大に結びついていない。

 笠井 輸出を増やしても、ドルを買わないといけないから、デメリットの方が大きい。金利を下げたが、すでにドルの流動性がタイトになっている。それとKIKOの問題がある。ウォンの変動幅が大きいため、輸出企業のドルヘッジの通貨オプションとして導入されたKIKOだが、単なるヘッジメニューではなかった。金融工学的に高度に追求された派生商品を取り扱える銀行は韓国には無に等しい。結果的に「無限の損害」という恐ろしいトラップにはまった600以上の企業が今でも苦しんでいる。

 司会 為替変動の問題はどうか。韓国は本来ならウォン高にならないといけないのに、ウォン安になってしまった。なぜこうなったのか。

 奥田 海外投資家が韓国関連商品を売ったからだ。海外投資家は途上国への投資を引き揚げているところであるが、韓国からの撤退もその一環である。一方、日本は市場規模があるので緊急時に資本を避難させる先として日本は韓国より有望だ。投資家が手元不如意となって資産を換金売りする必要に迫られたとしても、やはり市場の規模が大きい日本がいい。地政学的にも条件がいい。今回の危機が顕在化する時点での韓国のファンダメンタルズは前回の通貨危機の時とはちがって、特段悪くはなかった。しかし日韓では市場の成熟度が違う。

 笠井 外国人投資家にとってアジアはリスクがある資産投資対象市場に分類されているため資金需要があれば、優先的に資金を引き揚げる市場となっていること、円キャリートレードの解消が加速化していること、ウォンはドルやユーロとは異なり、基軸通貨でも世界的通貨でもなく、円のように安定的な信用通貨でもないため市場インパクトに弱く投資家の不安や危機意識にすぐに反応し為替の変動に影響を与えやすいこと、さらに2002年以降、円の13%に対してウォンは30%も高い上げ幅であったため、その反動も大きいことなどがウォンの大きな変動要因だ。

 李 韓国の為替が暴落している理由は、ドルが足りないことにある。銀行で信用状さえ開設できないという話が聞こえる。しかし、政府は、現実を無視して、為替保有残高が多いので心配ないという話を繰り返してきた。政府が出しているデータの信頼性がない

 呉 ウォン急落は、ここ数年中小企業への外貨貸出をむやみに増やしてきた韓国の銀行の責任が大きいと思う。行政の監督も甘かったのではないか。ウォン安の背景には基本的には2つほど大きな要因があり、これら要因は解消に向かいつつあるので、時間の経過とともに行き過ぎたウォン安は是正されると思う。まず、韓国の銀行と多くの中小企業による円キャリートレードの問題。銀行が海外から資金を短期で調達して、外貨と関係ない中小企業に外貨建ての貸し出しをした。外貨絡みの派生商品販売を含み、この数年でその規模がぼんぼん膨らんだ。中小企業らはウォン高の思惑と金利が安いことから実力以上にリスクを抱え込み、結果として韓国は国全体として短期借入が増えた。金融混乱で銀行の外貨調達、すなわち、それまでのような短期借入のロールオーバーがうまく行かなくなり、マーケットで外貨が急騰した。一時は、船舶会社が巨額の受注をしても、韓国の銀行が為替ヘッジに応じられないくらいまで、ひどい状況もあった。外貨収入のない中小企業がどんどん外貨借り入れをすることについて、もう少しうまく監督規制ができなかったかと残念に思う。

 李 銀行は利益が目的だから、円キャリーがだめとはいえない。政府が実効性あるキャパシティを持っていなかったことが問題だ。

 IMF事態の経験をしていながらも、政府が今回のような問題に対応できるキャパシティを保有していなかったことが問題だ。市場主義が何でもいいとはいえないが、営利企業であるはずの銀行が、自分のリスク負担能力の範囲内で利潤追求していたことを悪いといっては、政府の能力がないということだ。その個別企業の行動の結果起きる問題を政府が管理すべきであった。

 奥田 ウォン防衛と関連して韓国の通貨当局は外貨準備を少しずつ使っているが、大きな効果を挙げたとはいえない。むしろ、外国通貨当局とのスワップ枠の拡大と柔軟な発動を模索したほうがよさそうだ。だが、枠を拡大したとしてもそれが有効に活用できなければ意味がない。

 司会 李大統領が来日したときも部品産業の投資を訴えた。日本政府が今回の金融危機を契機に韓国にもっと投資を考えてもいいのではないか。

 呉 最近は、過去に比べ日本の企業が韓国企業により関心を持ってみている。電子部品、自動車部品などセクターが特にそうだ。韓国企業のうち、海外の顧客を確保していて、ウォン安メリットを活かせる企業があるなら投資をしたいと考えているようだ。日本企業にとっては、世界需要の減少と円高不況を乗り越えるための戦略的なニーズがある。韓国企業を買収して追加投資を行い、世界への輸出を拡大することを検討している企業は多いだろう。

 日本の部品産業が韓国に投資できる環境づくりとか、具体的にできることがあれば実現に向けてどんどん進めるべきだ。

 奥田 投資企業は依然として労働争議問題への警戒が強い。内需がしっかりしていて労働環境も両国間の為替レートも安定していることが製造業には大切だ。昨年秋に行った聞き取りでは、日系企業の主要な関心は韓国企業への納品に移っているようであった。それと韓日FTAはあったほうがいい。基準・認証手続きの関係で必要な部品・原材料の入手に支障が生じた事例を聞いている。少しでも早く部品等を入れるには基準・認証や税関手続きなど広範な事項を含む包括的なFTAが大切だ。また、FTAに伴う関税免除手続きが煩雑にわたらないよう配慮すべきだ。

 司会 世界経済が重心移動すると言われる中、アジアのウェートが上昇している。韓日中3カ国が中軸になるために何をなすべきか。

 李 韓国が97年の金融危機に陥ったとき、日本がIMFに代わって、援助しようとして米国が止めたことが同時にも報道されていた。危機への対応の手順は、負担作っておかなければ、危機の際にうまく作動しない。新しい関係をどうつくるか。日本のリーダーシップが大切になる。韓国が危機の際には、国債発行して日本で販売する手もある。

 呉 通貨安定のための外貨金融枠(スワップ枠)の拡大も重要な事項だが、この間妥結した。韓日中の連携はその経済規模や世界のなかでの役割からみて、極めて重要なもので、政府間でも同じ認識を持っていると思う。

 笠井昨年暮れの日韓中首脳会談において2009年4月までの時限措置で韓国は日中との通貨スワップ枠を600億㌦に拡大合意した。こうした協力体制ができれば、韓国はドル需要が高い時に外貨保有高世界1位の中国と2位の日本が支援するわけだからこれほど心強い枠組みは世界にどこにもないわけだ。しかも日韓の通貨スワップは円とウォンの貸し借りだから、韓国がドルを円で調達することになり円高抑制効果も見込める。

 奥田 北東アジア域内での交流は貿易を除くと概して弱い。新しい永続的な機構をつくることが大切だ。金融面ではいまはハードルが低い。先のアジア通貨危機の際にはAMF(アジア通貨基金構想)が米国の反対で頓挫している。しかし、今は同様な構想を実現しようとしてもそれほど大きな障害に遭遇することはないだろう。また、韓日中首脳会談で合意されたスワップ拡大枠も歓迎すべき動きである。今は新しい関係をつくるのによい時期である。

 李 社会保障システムをどう作っていくかが問題である。資本主義と社会保障システムは、本来は反する考えだが、社会保障制度がしっかりしていないと資本主義の持続的な発展は難しい。社会保障制度は、危機の際に、国民の最低限の生活を守るものでもある。投機が破裂したのか現在の問題だ。投機規制は簡単にはいかない。それは、米国的な資本主義の考えがあるからだ。金融派生商品で荒稼ぎして30歳で引退する連中がいるのがアメリカの金融市場であるといわれている。投機は、結局何も産み出さない。金を移動させて不良債権をばら撒いた現実が、アメリカ主導の金融の自由化と国際化の弊害として現れている。果たしてデリバティブを規制できるかどうか。韓国の銀行に手数料を払って投機的な派生商品を売ったのは外資の連中だ。

 司会 最後に世界経済克服に向けて、提案を述べてほしい。

 奥田 マルクスは労働を重視し、貨幣というのは交換手段にしか過ぎないといった。近代経済学でも貨幣それ自体は無価値という考えは共有されている。乱発された貨幣が価値を保有したまま暴れまわる現状は正常ではない。労働が価値を生み出す重要な源泉という視点から見直すことは大切だ。経済のボリュームから言って相当な大きさになった東アジアを一つの核として浮上させることに反対意見はないと思う。そのために何らかの機構を設置するのがよいと思うが、その場合、盧武鉉政権下で構想されたハブ論のように、韓国のような日本にも中国にも偏らない中立的な場であるソウルにハブを置く考えはあると思う。

 李 米国がどうやって危機を抜け出すか。CDSを無効にして公的資金を投入できればいいが、それはできない。実態のない取引が崩壊しつつあるいま、世界が崩壊しないように米国が何を示せるかだ。これとは、別にアジアの3カ国(韓国、日本、中国)は、別の協力体制を作るべきである。3カ国の首脳が話し合いを始めているのは、希望的である。今回の対策だけではなく、将来に発生しうる金融危機、自然災害、安全保障について、中断せず、しっかりと話し合うべきだ。

 笠井 金融危機対応に公的資金投入や国有化で対応していることからドイツなどではマルクス再生論が出ていると言うが、これは景気循環である。1929年末の世界大恐慌は43カ月マイナスが続いたが、その後44年で第1次オイルショック不況、さらに35年で今回の金融危機だ。

 東アジアが何をすべきか、産業革命以降のヨーロッパ、戦後回復以降のアメリカに次ぐ成長軸をアジアに定着するには日中韓重合体制、東アジア共同体などの成熟関係しかないだろう。そのためにはこの地域の安定がまず第一で北朝鮮をどう巻き込むかだ。

 呉 まずは新しく始まるオバマ政権に期待したい。高い支持率を背景に指導力を発揮し、先進国間の協力体制、東アジア3カ国との協力体制、国家間の資金移動を円滑にさせて必要な産業・企業が流動性を確保できるようにすることが大切だ。この危機を乗り越えてチャンスにできる企業や国家は、より大きな成長が約束されると思う。


  リ・ホンム 1960年韓国・忠清北道生まれ。83年檀国大学校商経大学貿易学科卒。95年早稲田大学大学院商学研究科博士課程修了。商学博士。98年檀国大学校商経大学助教授就任。2007年4月早稲田大学商学学術院教授に就任。専攻は保険論、リスクマネジメント論。

  かさい・のぶゆき 1948年神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。国際通商戦略研究院研究委員(韓国)。専攻は開発経済学、韓国経済論、東アジア経済論。

  おくだ・さとる 1963年東京都生まれ。85年一橋大学卒。同年アジア経済研究所入所。90~92年在ロサンゼルス海外派遣員。2000~2003年在ソウル海外調査員。2003年地域研究センター東アジア研究グループ長。2008年地域研究センター専任調査役(主任研究員)。

  オ・セジョン 1962年韓国・忠清南道生まれ。韓国外国語大学貿易学科卒。慶応義塾大学大学院商学研究科修士修了。94年から大宇証券東京支店勤務。2000年支店長に。2002年一時支店閉鎖後、2006年東京事務所として再開、東京事務所長として赴任。