李明博大統領は20日の閣議で、「中国がかなり速いスピードで成長し、市場環境が急変している。韓国も変化する状況に能動的かつ効果的に備えなければならない」として、韓中FTA(自由貿易協定)の締結問題を検討するよう指示した。中国側はかねてより韓国とのFTAに積極的であり、今回の大統領の指示を受けて年内に政府間交渉が始まる公算が強くなった。
実は、韓中FTAはすでに両国政府によって検討されていた。2004年に両国が民間共同研究に合意し、07年3月から08年6月まで5回にわたって産・官・学の共同研究を行ったが、韓国側に打撃が大きい農産物市場の開放をめぐって対立し、共同報告書作成に至っていない。
だが、李大統領主宰で15日開かれた非常経済対策会議で知識経済部が「韓中FTAを検討したい」と報告。これが引き金になって動き出し、今回の大統領指示となった。韓中両国はすでにFTAの方式と効果について総論で見解の一致をみており、来月には産官学の共同研究結果が発表され、下半期(7~12月)に予備交渉ないし本交渉に入れる見通しだ。
韓国は韓中FTAには慎重だった。それが一転して積極推進に転じたのは、大きく2つの要因があるとされている。
まず、中国の内需拡大政策で中国市場が拡大したが、競争国の台頭で韓国の一部品目のシェアは低下するなど競争が激化しているからだ。中国はASEAN(東南アジア諸国連合)と香港、マカオなどとFTAを締結したのに続き、台湾ともFTAに準じる経済協力枠組み協定(ECFA)を6月にも締結する見込みだ。すでに韓国産デジタルテレビの中国市場でのシェアは08年の12・2%から昨年には7・7%へ低下している。これは、チャイワン(中国+台湾)効果が大きい。台湾メーカーが中国現地の企業と提携して攻撃的なマーケティングを展開した結果とみている。
第2は、韓米FTAが年内に米議会の批准を受ける可能性が低く、対応が迫られていた。韓米FTAが締結されて2年以上になるが、いまだに批准されず店ざらし状態だ。こうした状況で韓国がEU(欧州連合)に次いで中国ともFTAを締結することになれば、米企業は韓国市場で厳しい立場に立たされる。米国に対して早期批准を促す効果的なカードになり得るとの判断がある。また、再交渉に入れていない日本とのFTAにも影響が及びそうだ。
だが、韓中FTA交渉が開始されても、締結は容易ではないとの見方もある。
現在、中国は韓国にとって最大の貿易相手国であり、昨年の貿易額は1410億㌦に達し、324億㌦の貿易黒字をあげている。対中貿易は韓国全貿易額の20・5%を占め、対日の10・4%、対米の9・7%を大きく上回る。特に対中輸出比率は今年1~3月20日実績で26・7%を占め、韓国全輸出の4分の1強になる。圧倒的に重要な貿易相手国である。
このような中国とのFTAは経済的に得るところ多い。実際、韓国貿易協会が年初に製造業3000社を対象に調査した結果、58・8%が韓中FTAに賛成し、反対は36・8%だった。だが、業種によっては打撃が大きく、利害関係が先鋭化する。自動車や半導体、液晶、テレビなど韓国の主力輸出商品にとっては、FTA締結による関税撤廃や引き下げは大きなメリットだが、衣料や繊維製品などは中国の安価製品が雪崩を打って入ってくる上、特に農業への被害が憂慮される。中国からの農産物輸入が急増すれば、韓国農業の生産性は10~14%低下するとの試算もある。
いずれにしても韓中FTAの締結には補完対策が必要となっている。