米国の継続的な圧力を受けて中国が人民元の「弾力化」を打ち出した。事実上の元切り上げ宣言だ。これにより、今週初めの相場はドル安元高に動いた。26日から始まるG20(主要20カ国・地域)首脳会議を控え、中国の努力をアピールする狙いもあるが、「世界の工場」といわれる中国だけに元切り上げの世界経済に及ぼす影響は大きい。中国との経済関係が密接な韓国にとって、元高は輸出増大効果が期待できるが、国内物価へのはね返りや中国進出企業の負担増など否定的な面もある。このため韓国では「元高は諸刃の剣であり、影響を綿密に検討すべきだ」と対策を求める声が起こっている。
中国人民銀行は先週末の19日、「国内外の経済・金融情勢とわが国の国際収支の状況に基づき、人民銀行は人民元の為替形成メカニズムの改革をさらに進め、元場相場の弾力性を高める」と発表。基準値の上下0・5%範囲内での変動を認め、08年7月以降維持していたドルペッグ制(事実上の固定相場制)を廃棄した。
今回の元切り上げ宣言は、米など外国の切り上げ圧力以外に中国内のインフレと資産バブルを抑え、内需拡大を図るうえで、人民元の切り上げが役立つとの判断もあったとみられている。中国は昨年も2974億㌦の巨額貿易黒字を記録しており、切り上げは避けられない状況にあった。
元相場の弾力化方針発表を受け、週明けの21日の元相場は、1㌦=6・79元まで上昇した。先週末比0・42%の切り上げだ。だが、その後の切り上げ幅はほんのわずかであり、専門家らは「切り上げ幅は年内3%内にとどまるだろう」と予想している。
問題は、ウォンも元に連動する形で動いている点だ。21日の対ドル相場は30・60ウォン高の1㌦=1172・00ウォンを記録。5月19日の1165・10以来のウォン高となった。翌22日からはウォン安に振れ、23日のレートは前日比5・8ウォン安 の1187・5となったが、今後は元の動きを注視せざるを得なくなっている。
金仲秀(キム・チュンス)・韓国銀行総裁は、元相場の弾力化に関連し、ウォン高の圧力として作用するとの見方を示しながらも、元切り上げに伴うウォン高幅は、それほど大きくならないだろうと展望した。
韓国の対中輸出比重は昨年23・8%に達した。輸入比重は16・8%を占める。元高になれば、韓国製品の価格競争力が高まり、世界市場で中国製品と競合する品目については利点が大きくなる。特に、価格優位にあった中国製に押されていたプラスチックや非鉄金属、繊維などで巻き返しが可能となる。
だが、中国の輸出鈍化は韓国にとってマイナスに響く場合もある。韓国の対中輸出の93%が原資材や中間財および資本財であり、このうちの半分ほどが加工貿易用として中国で完成品に加工して第三国に輸出されている。つまり、中国の輸出が減れば、韓国の対中輸出にも影響が生じるということだ。
現在、中国に進出している韓国企業は2万社を超えるが、その多くが賃上げ上昇圧力に加え、元高によるコストプッシュの二重苦にさらされることになる。特に、中国に生産拠点を置いて第3国に輸出する企業にとっては、元高はマイナス要因の方が大きい。すでに人件費高騰を見越して生産拠点をべトナムに移していく企業もあるが、多くの企業は市場が大きい中国での生産をやめるわけにはいかないのが現状だ。一方で、今年2月から済州道が施行している「不動産投資移民制度」で中国系資本の済州道投資が活気づいているが、元高がそれに拍車をかけそうだ。
元高は中国の内需市場を押し上げる効果が大きい。これを機会に中国内需市場攻略に本腰を入れるべきだという指摘もなされている。新任の玄定沢(ヒョン・ジョンテク)・貿易委員会委員長は、「今回の中国の元切り上げは内需市場を育てるという意思表示だ。韓国とも早く中国内需市場に入り込まなければならないが、そのためには韓中FTA(自由貿易協定)が実現されなければならない」と強調した。
このように元切り上げは韓国経済にも大きな影響があり、対策を講じる必要があるが、問題は元の切り上げ幅と速度だろう。元高は始まったばかりだが、これを新たなチャンスに活用する英知の発揮が大事だろう。