東日本大震災による福島第1原子力発電所の放射能漏れ事故を世界が注視しているが、韓国では国内で稼働している21基の原発すべてに対する総合的な安全検査に踏み切った。特に、運転開始から20年以上経過した原発を重点的に検査、必要な場合は稼働を停止する方針だ。だが、原発推進の基本政策は維持するとしている。
政府は3月28日、金滉植(キム・ファンシク)国務総理主宰で原子力委員会を開き、韓国内の原発安全管理対策と今後の方針を協議し、4月22日まで21基すべての原発や研究炉など主な原子力施設の安全点検実施を決めた。精密検査が必要な場合は原発の稼働を停止するなど安全管理対策を徹底することで一致した。また、放射性物質の流出などの原子力事故に備えた緊急対応体制を再点検し、東日本大震災のように地震発生から大規模な津波、電力供給遮断、原発事故につながる最悪の状況を想定した安全検査を行う計画だ。検査では原発の周辺住民と民間の環境監視機関、原発事業者の意見も反映する。
しかし、原発推進政策は変更しない。原子力委員会の委員らは「韓国はエネルギー資源の多くを輸入に依存しており、安定的な電気供給と気候変動への対応のためには原発が不可欠だ」と判断、2008年に策定した「第1次国家エネルギー基本計画」で定めた現行の原子力政策基調は維持するものの、安全性を最優先に推進するとの認識で一致した。
金滉植総理は「日本の原発事故が示唆する点を綿密に分析し、安全点検の結果を踏まえ、完璧な安全対策を立てなければならない」と強調した。また、その結果を透明に公開し、国民の信頼を得られるよう積極的に取り組むよう指示した。
検査対象の原発のうち、運転開始から20年以上が経過した古里(コリ)原発1・2・3・4号機(釜山市)、月城(ウォルソン)原発1号機(慶尚北道)、霊光(ヨングァン)原発1・2号機(全羅南道)、蔚珍(ウルチン)1・2号機(慶尚北道)の9基にのぼる。教育科学技術部は、今回の検査には韓国原子力安全技術院、韓国水力原子力などの専門機関や原子力発電事業者だけでなく民間の専門家も参加させ、安全性の検査に徹底を期すと語った。
李明博大統領は、青瓦台(大統領府)での対策会議で、マニュアルをもう一度点検し、チェックするよう指示した。
韓国最初の商用原子力発電所は、78年に稼働した古里原発1号機。現在まで21基が稼働し、原発の発電量は国内の電力供給量の35・5%を占める。今後2030年までに39基の原発運用を計画している。
政府は、「韓国の原発は稼働率が高く安全だ」との立場に立っているが、福島第1原発事故後は世論にも不安の声が出ている。東亜日報の世論調査によると、国内の原発について「安全でない」(43・2%)が「安全だ」(22・4%)の2倍近く多かった。1年前には「安全だ」(31・9%)と考えていた人が「安全でない」(23・0%)より多かった。
また、釜山地方弁護士会は28日、古里原発1号機の運転停止を求める仮処分申請を裁判所に申し立てる考えを発表した。釜山市機張(キジャン)郡長安(チャンアン)邑にある古里原発1号機は、設計上の寿命とされる30年がすでに経過しているが、現在も稼働している。07年末に教育科学技術部が10年の運転延長を許可したためだ。釜山弁護士会の張俊棟(チャン・ジュンドン)会長は「寿命の延長に関しては、幅広く議論することが必要だ」と述べた。
こうした中、韓国原子力安全技術院が先月28日、ソウル市や春川(チュンチョン)市など12カ所の放射能測定所で空気中の放射能測定を実施したところ、すべての測定所から放射性ヨウ素が検出され、このうち1カ所からは放射性セシウムも検出された。ごく微量で、人体に影響を及ぼすほどではないが、福島第1原発事故の影響が韓国国内にも及んでいることを立証するもので、注目を集めている。
ドイツでは、1980年以前に建設された7基の稼働を中断すると発表された。本来21年までに自国内にある17基すべての原発を、使用年限に従って段階的に閉鎖する計画だったが、現政権発足後は原発の稼働期間を平均で12年間延長することを決めていた。
また、ロシアでは世論調査の結果、原発縮小ないし全面廃棄すべきとの回答が40%にのぼり、昨年の14%から急増している。スリーマイル原発事故の苦い経験がある米国は原発再推進の勢いにブレーキがかかってきた。
韓国は今回の原発安全検査に徹底を期し、国民的な論議を踏まえて原発政策を進めることを迫られている。また、風力や太陽光など自然エネルギー開発に拍車をかける必要がありそうだ。