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2012/05/11

<総合>韓中FTAへ初交渉開始

  • 韓中FTAへ初交渉開始

    朴泰鎬・通商交渉本部長(左)と陳徳銘・商務相が韓中FTA交渉開始を宣言し握手

 韓国のFTA(自由貿易協定)網が中国にも広がる見通しだ。韓中両国政府は10日、両国間のFTA締結に向けて北京で初交渉を開始した。中国とのFTAが結ばれれば、韓国の関税障壁のない市場規模は世界GDP(国内総生産)の67%に高まる。その比率はメキシコに次ぐ世界2位。米国、EU(欧州連合)、中国、ASEAN(東南アジア諸国連合)の世界4大経済圏とFTAを結ぶ初の国家となる。だが、韓国にとって韓中FTAは農業など国内産業に及ぼす影響が大きく、どう乗り切るかも問われる。

 初交渉には、崔晳泳(チェ・ソギョン)FTA交渉代表をはじめ、企画財政部、農林水産食品部、知識経済部の関係者が出席。中国側は商務省の兪建華次官補らが出席した。両国は協定運営の細則を決めるとともに、FTAの及ぶ範囲について意見交換。特に、双方の敏感品目を中心に協議する。貿易統計・関税についての情報交換や交渉のスケジュール調整も行う。

 韓中FTAは、2004年9月の民間共同研究開始から7年余りで本格的に動き出した。今年1月9日、李明博大統領と胡錦濤国家主席の首脳会談で早期交渉開始に合意。中国が内需中心に経済基調を切り換えたことで、慎重だった韓国も腰をあげた。中国市場で先にシェアを確保するためだ。これを受け今月2日、北京での朴泰鎬(パク・テホ)・通商交渉本部長と陳徳銘・商務相が会談し、韓中FTA交渉開始を宣言した。

 朴本部長は会談後の記者会見で「韓中FTAが発効すれば、企業に幅広い事業機会をもたらす」と語り、陳商務相は「中韓日3カ国の経済統合の重要な基礎、推進力となる」と強調した。締結時期について韓国側は韓米FTAを教訓にし、急がない立場だ。しかし、中国側は「2年以内」(陳商務相)を希望。

 両国は交渉原則として、サービス・投資分野で、WTO(世界貿易機関)協定が定める開放義務を上回る「高いレベル」のFTAをめざすとしている。両国の合意によると、これまでのFTA交渉とは異なる幾つかの特徴がある。

 まず、FTA交渉は2段階に分けて進め、第1段階で両国の敏感分野の扱いとFTAの範囲設定を集中的に協議する。韓国側は農水産分野を、中国側は自動車、機械、石油分野などの製造業を敏感分野に分類している。この第1段階交渉で合意が得られなければ、産業別の具体的な交渉を行う第2段階に進めない。

 韓国は価格競争力で優位にある農水産物を敏感品目とし、関税撤廃を遅らせる方針だ。特に、コメをはじめ牛肉や鶏肉、リンゴ、ナシなどの果物、唐辛子、ニンニク、タマネギなどの野菜は超敏感品目として関税撤廃対象から外したい考えだ。一方の中国は、自動車や石油化学製品を敏感品目に設定している。この敏感品目を巡り、交渉の難航が予想される。

 第2は、指定された域外加工地域で生産した製品にもFTA特恵関税を適用することに合意した点だ。崔FTA交渉代表は「開城工業団地をはじめとする北朝鮮にある域外加工地域を意味する」とし「韓半島の平和と北朝鮮の改革・開放を誘導するうえで、効果がある」と説明した。韓国がこれまで締結したFTAで開城工業団地製を韓国製と認めFTAの適用に含めたのはシンガポールだけだ。

 現在、開城工業団地には123の韓国企業が進出、年間14億㌦相当を生産。うち11%を海外に輸出している。雇用人員は4万7000人にのぼる。FTA対象品目になれば、同工業団地の生産増大が期待できる。

 韓中FTAの効果は、韓米、韓EU以上に大きなものがある。韓中貿易は昨年2206億㌦(輸出1342億㌦、輸入864億㌦)を記録。特に、対中輸出は対米輸出の2倍以上になる。対外経済研究院は、韓中FTAの発効で実質GDPが10年後に2・28~3・04%まで増えると予想。雇用効果も24万~33万人増えるとみている。

 また、中国は今後巨大な「内需市場」へと変貌する見通しであり、輸出市場としても魅力は高まる一方だ。

 だが、韓中FTA締結への懸念も少なくない。中小企業研究院は「韓国経済全体にはプラスだが、一部産業に大きな混乱がある」と懸念する。大企業が輸入先を中国に変えれば、繊維など国内の中小企業は大きな打撃を受ける可能性があるからだ。

 特に、農水産業の影響が懸念される。韓中FTAが発効すれば、農水産物輸入額は108億㌦に増え、農業生産額は14・7%減少するとの試算も出ている。