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2012/05/25

<総合>夢のグラフェン半導体技術を開発

  • 夢のグラフェン半導体技術を開発

    サムスン総合技術院が開発したグラフェン半導体の開発主役。グラフェンの構造模型をもつ朴ソンジュン研究員(右)

 サムスン総合技術院は、電子が速く流れる特性を持つ「夢の新素材」と呼ばれるグラフェンを活用した新たな半導体技術の開発に成功した。実用化されれば、従来の100倍以上の速さのデータ処理も可能になり、パソコンやスマートフォン(高機能携帯電話)などの性能を飛躍的に向上させることが期待できるという。新技術は米学術誌「サイエンス」(電子版)で発表された。

 現在、トランジスタ(増幅やスイッチングなどを行う半導体素子)材料の主流はシリコンだ。

 だが、グラフェンの使用によってCPU(中央処理装置)などシステム半導体の処理速度を画期的に上げれば、次世代半導体市場で主導権を握ることが可能となる。

 このため、サムスン総合技術院は、米スタンフォード大化学工学博士の朴ソンジュン専門研究員が率い、ソウル大物理学博士のチョン・ヒョンジョン専門研究員ら約10人からなる研究チームを組織、2009年から研究を重ね、今回の開発成功となった。

 グラフェンは炭素原子でできた1枚のシート状物質で、六角形が網の目のように並んだ構造をもつ。電気的特性に優れ、電荷移動度はシリコンの100倍以上だ。熱伝導率はダイヤモンドの2倍以上に達する。グラフェンは高価でないため、コスト負担が少ない。このように様々な利点があるが、解決すべき難題ゆえに開発が遅れていた。

 朴専門研究員は、「半導体の性能を高めるには、トランジスタのサイズを小さくして電子の移動距離を縮めるか、電荷移動度が大きな材料を使用して電子が早く動くようになければならない」と指摘、グラフェンに着目した。

 大きな電荷移動度を持つグラフェンは、シリコンに代わる物質として注目されていたが、実用化のためには解決すべき課題がある。グラフェンは金属性を有し、電流を遮断することができないからだ。トランジスタは、電流の流れと遮断をそれぞれデジタル信号の0と1で示す。グラフェンを活用するには、これを「半導体化」する過程を経なければならない。

 朴研究員らは、グラフェンの電荷移動度を維持しながらも、電流を遮断できる素子を開発した。これには、新たな作動原理として「ショットキー障壁」を適用。難題とされた待機電力問題をショットキー障壁によって解決した点が特徴だ。

 グラフェンとシリコンを接合し、一種のエネルギー障壁をつくり、この障壁の高さを調節することで、電流のオン/オフができるようにした。ショットキー障壁が高くなれば、電流は遮断(オフ)。ショットキー障壁が低くなれば、電流が流れる(オン)。サムスン電子総合技術院は障壁(バリア)を直接調節するという意味から、この新しい素子を「バリスター」と名付けた。

 従来の半導体製造工程を変える必要が殆どないという利点もある。シリコン・ウエハー原板をグラフェンで覆えばいいからだ。朴ソンジュン研究員は「グラフェンの素子研究の難題を解決したという点で大きな意味を持つ。関連分野でリードするための基礎を築いた」と述べた。

 サムスン電子は、グラフェンを活用した半導体の量産を2020年までに実現させる計画だ。グラフェンがDRAM、NANDフラッシュ、CPUなど各種システム半導体に幅広く使用されれば、半導体の性能は飛躍的に高まる見通しだ。電力消費も減らすと期待されている。


 ◆グラフェンとは 炭素の同素体の1つであるグラファイト(黒鉛)の1原子層分を指す。層の厚さは0・1~0・3ナノメートル(1ナノは10億分の1)程度。グラファイトはグラフェンが積み重なり、層状構造になったものを指す。2004年、単層のグラフェンの分離に初めて成功したロシア出身の物理学者アンドレ氏とコンスタンチン氏は同業績により10年にノーベル物理学賞を受賞した。

 グラフェンは、非常に大きな電荷移動度を有し、電子材料として注目されている。また、特異な電子構造とともに高機械強度、高安定性といった他の材料では得られない数々の特性を有する。純粋な炭素材料であることから、資源の豊富さ、安全性の面でも優れており、色々な意味で潜在能力の高い材料だ。