ここから本文です

2000/07/28

<鳳仙花>◆在日文学に新境地◆

 在日文学に新境地を開く新世代の作家が誕生した。書き下ろし長編「GO」で直木賞を受賞した金城一紀、自らをコリアン・ジャパニーズと称している32歳の新進在日2世作家だ。

 この小説を読んで感じたのは、ぐいぐいと小説の世界に引き込むパワーだ。一気に読ませる用意周到さ、そして少し注意すれば分かる他人に対する思いやりと優しさに満ちた筆致に惚れ込んでしまう。稀にみる才能の持ち主だ。

 テーマはむしろ古くさい。朝鮮学校を中学まで通い日本の高校に行った作者の体験が重なりあう「在日」を軸にしたラブストリーだ。初めてのベッドの中で日本人でないことを打ち明けると、一瞬冷たくされ、彼はホテルの部屋を出ていく。だが、再会して一緒に未来へ向けて歩き出す。強いていえば、「愛(恋愛)は民族・国家に勝る」ということになろうか。

 だが、作者が否定しようが、これはまさしく「在日」がテーマの典型的な在日文学だ。暗い色調も似ているが、ユーモアがあり、善悪の決めつけをしていないのがいい。そして、「在日」の殻を打ち破って本当に自由な存在になれる未来を切り開いていこうとする感覚が新しい。言い替えれば、「在日」という矛盾を抱え持つ存在、その中での格闘をむしろ肥やしとして、自らの生き方を探り出そうとする楽天的な発想に大きな共感を覚える。

 高校で在日サークルへの参加を断る中で、主人公はこう言っている。

 「大きなものに帰属してる、なんて感覚を抱えながら生きていくのは、まっぴらごめんなんだよ。しかし、キム・ベイシンカー(米女優)から国籍を変えてといわれれば、すぐ変える。俺にとって国籍はそんなものだ」

 そう言いながらも決して変えようとしない。「矛盾があれば発展がある」という。これを地でいった小説でもある。(S)