現代美術の祭典「横浜トリエンナーレ」がこのほど開幕した。世界38カ国から110人が出品し、絵画、彫刻、写真などの新作を発表する大規模な展示会で、横浜市内の6会場を1日ではとても見て回れない。
韓国からも5人の作家が出品し、横浜ランドマークタワー前には崔正花さんが制作した果物をかたどった高さ5㍍の巨大バルーンが設置され、人目を引いている。韓国現代美術への評価は、近年、国際的に高まりつつある。
ところで日本ではあまり知られていないが、韓国現代美術史上忘れてはならない人がいる。解放前後に活躍した画家の李仲燮(1916―56)である。
生まれ故郷の牛、鳥、鹿、童子などを大胆なタッチと鮮明な原色で表現した絵画で知られる李仲燮は、韓国美術界の現代画風導入に大きく寄与した。彼の絵は、時代を先取りした前衛的なタッチで、ピカソらのキュービスムを彷彿させ、その独自の画風は見る者を圧倒する。
現在の北朝鮮・元山に生まれた李仲燮は、解放前に日本留学、画家としての才能を開花させた。
日本人女性と結婚して故郷に戻り、そこで解放を迎えるが、喜びもつかの間、左右対立が激化して兄が殺されると、故郷で死にたいという母を残し、妻子を連れて韓国に渡る。
しかし、韓国戦争の混乱で生活は困窮を極め、妻は子ども2人を連れて日本に帰る。そのショックで李仲燮は心を病み、精神病院に入院。肝硬変で死去した。
日本による植民地支配、南北分断と韓国戦争、家族離散と、まさに民族の痛みを背負った人生であった。
代表作は「怒った牡牛」の連作で、ソウルの韓国現代美術館に行くと彼の作品を見ることが出来る。韓国訪問の時はぜひ訪れてもらいたい。(L)