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2001/06/22

<鳳仙花>◆未来産業を見る目◆

 21世紀の韓国経済を支える生命工学分野でビル・ゲイツのような人物を育てたい――。韓国で最近、未来産業の鄭文述・前社長(63)が私財300億ウオンを韓国科学技術院(KAIST)に寄付すると発表して話題になっている。

 韓国で個人が公的事業にこれだけの額を寄付することはほとんどないだけに新鮮な驚きだが、その動機が注目に値する。鄭氏は寄付に際して専門の新しい学科の設置を条件づけ、「いまは革命の時代だ。今後、バイオ新技術で新しい合成燃料や自動車の鋼板を代替できる新素材ができる可能性があり、この技術開発のためには人材育成が絶対必要だ。10年間に博士級の高級頭脳480人を養成したい」と語った。

 韓国は国土が狭く天然資源に乏しいため、人的資源が原動力になって成長してきた。特に、80年代に半導体産業を韓国の立地条件に照らして有望産業と判断して集中的に育成したのが今日大きな成果をあげている。IT(情報技術)の次は生命工学といわれているが、世界的にも未知の分野であり鄭氏の提案は大いに刺激になりそうだ。

 鄭氏は未来産業社長時代に来日講演したこともあり、日本でもご存知の方はいるが、83年に設立した半導体装備会社を電子、機械、情報などを結合するメカトロニクス分野で世界的な技術力を持つ企業に育て上げた創業者である。ところが、今年1月に突然引退を宣言、しかも息子たちには後を継がせず経営権を生え抜きの社員に任せた。世襲が当たり前の韓国の企業風土だけに大きな話題を呼んだことが記憶に新しい。その時、「余生は富を社会に適切に還元する生産的寄付に生きる」と述べていた。

 鉄鋼王・カーネギーは「金持ちのまま死ぬことは恥ずかしいことである」と言い残したが、新しいタイプの経営者像を示したといえよう。韓国のイメージ向上にもつながるだけに鄭氏の活動を応援したい。(S)