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2002/12/20

<鳳仙花>◆高齢者医療の現場◆

 高齢者医療の現場を見ようと、在日2世が経営する「八千代病院」という名の老人病院を訪れた。広島空港から車で1時間半、3つの山を越えて、やっと辿り着いたという感じだ。

 瀟洒なたたずまいの玄関を入ると、まず院内の明るさに驚かされる。ロビーも広々としていて、床は板張りだ。病院の冷たいイメージとは違う穏やかさを感じた。トイレで職員が笑顔でお辞儀をしてきた。何となくほのぼのとなった。食堂兼待合室にはピアノの自動演奏が流れ、とても落ち着いた雰囲気につつまれていた。

 リハビリ室を覗くと、床暖房のぬくもりが伝わってきた。洗濯室では大型ドライクリーナーが数台動いていて、傍らで職員が洗濯物を丁寧にたたんでいた。家族の負担を減らすために考案されたという。病院の裏手で掘り当てた温泉を利用した温泉療法浴場では、患者さんがゆったり浸かっていた。

 院内を回って見て気がついたのは、チリやごみが全く落ちてないことだ。廊下は綺麗に磨き上げられていて、病院特有の臭いもない。最も感心したのは、職員の表情がいいことだ。お年寄りは寂しがり屋だが、これなら心の安心も得られるだろうと思った。ここには痴呆症患者も入院しているが、「縛らぬ介護」は地元のマスコミで話題になり、患者を癒すアコーディオンによる音楽療法も評判を呼んだという。

 この病院を10年前に設立、県下1の511病床の規模に広げた姜仁秀理事長(58)は、「医療は最先端サービス業ですよ」と教えてくれた。そのサービスを学ぶため2万人近い人が見学のために訪れた。入院待ちの患者も多い。高齢者医療、ケアの大切な実践を見た思いだ。在日2世がその先頭に立っていることでとても嬉しい気持ちになった。(S)