東京国際映画祭で10本の映画をみたが、今年は特に感動作が多かった。韓国映画で圧巻だったのは「酔画仙」(林権澤監督)。朝鮮朝末期に自由な画風で近代絵画の土台を築いた天才画家・張承業(チャン・スンオップ)の生涯を描いた作品だ。
独特な筆墨法を駆使して山水、人物、花鳥などの名品を残した朝鮮朝3大画家のひとり。その流れるような筆づかいをよくここまで映像化できたものだと感心した。同時に、多くの若者に見てほしいと思った。こんな素晴らしい画家がいたことを知ってほしいからだ。
さすが今年のカンヌ映画祭監督賞をとっただけのことはある。この監督は、10数年前にパンソリの旅芸人を描いた「風の丘を越えて―西便制」という映画をつくった。日本でも上映され話題になったが、韓国の伝統を素材に現代に語りかける作風に訴える力がとても大きい。
ブラジル映画「シティ・オブ・ゴッド」も力作だ。リオデジャネイロの一角にある犯罪と暴力が支配するスラム街。麻薬と銃に汚染された少年たちの殺戮し合う実話を描きブラジル最大のヒット作となった。フェルデナンド・メイレイレス監督が、「私を含めブラジルの中流階級はこのような現実が存在することを知らない。知ってもらう必要があると思った」と語ったのが印象的だった。
7時間を超すロシアの大作「戦争と平和」(セルゲイ・ボンダルチュク監督)が一挙上映された。30年以上たっても光彩を放っている、疑いもなく歴史に残る名作だ。後援したパチンコ機械メーカーの「平和」は「社名は平和を願ってつけた」と会場にメッセージを伝えた。祖国で起こった韓国戦争を目の前にした在日経営者の願いだった。
ユダヤ人ゲットーから生還したロマン・ポランスキー監督の体験を踏まえた「戦場のピアニスト」、故郷に残してきた家族を貧困から救うため守銭奴といわれた新撰組隊士の吉村を描いた「壬生義士伝」(滝田洋二郎監督)。私たちは何をすべきなのか、時代を超えての問いかけが観客を深い感動の涙につつんだ。(S)