ここから本文です

2003/11/07

<鳳仙花>◆詩人・尹東柱の生涯◆

 「死ぬ日まで天(そら)をあおぎ/一点の恥ずることなきを/葉あいを縫いそよぐ風にも/わたしは心痛めた/星をうたう心で/すべて死にゆくものたちをいとおしまねば/そしてわたしに与えられた道を/歩みゆかねば」

 韓国で「抵抗詩人」「民族詩人」と呼ばれ、教科書にも掲載されている尹東柱の詩の一節である。韓国ではだれもが知っている尹東柱だが、残念ながら日本で知る人は少ない。

 尹は日本の植民地時代に青春期を過ごし、京都の同志社大学留学中の1943年7月に治安維持法違反で逮捕され、解放直前の45年2月16日、福岡刑務所で28歳の若さで亡くなった。獄中で人体実験の注射を受け、そのために衰弱死したとの説もあるが、真相は未だ解明されていない。

 その尹東柱の生涯を描いた芝居が先日、日本の小劇団ピープルシアターによって上演された。逮捕前後の尹東柱を主役にしつつ、2001年1月、新大久保駅で線路に転落した日本人を救おうとして亡くなった韓国人留学生と日本人カメラマンの遺族も登場させ、戦前の日本と現代の日本を重ね合わせながら、尹が詩で表現した人間愛、平和について考える作品だ。

 「韓日友好の時代だからこそ、犠牲になった人たちのことを忘れずに伝えたい」と制作者は話していたが、その意図通り、反戦への思いが伝わる見事な出来上がりだった。

 尹東柱については、十数年前に詩集の日本語訳「天と風と星と詩」が出版され、95年には没後50年を記念して同志社大学に詩碑が建てられている。昨年は神戸在住の日本人牧師が、詩にメロディを付けたCDを自費出版するなど、尹の足跡を知らせる運動が続いている。秋の夜長、尹の残した美しくも悲しい詩に触れると、韓日の歴史の流れを感じる。(L)