在日3世の劇作家・和田憲明さん(42)は、自分が生まれる前に両親が帰化していて、日本人として育った。出自が在日韓国人と知ったときには驚き、帰化していることや韓国に対するコンプレックスなどを持ったという。そのため、韓国名を使ったり、韓国に行くことにはいまも抵抗があるというが、それを逆に劇作に生かしてきた。
2001年に日本人男性と韓国人女性の恋愛を描いた芝居「東亜悲恋」を発表したが、劇中に在日韓国人3世を主要な役柄で登場させ、民族差別、韓日の狭間で揺れる在日の心情を描き、話題となった。
その和田さんが、2001年9月11日の米同時多発テロ事件とその後の不安定な世界情勢を見て、平和の尊さを訴えた「オーバーシーズ」が、東京と大阪で上演中だ。
ピノチェト軍事政権が終焉した後の95年のチリを舞台に、そこで生活する日本人商社員の夫婦を主人公にした演劇で、会社の利益のためには軍事政権に協力することも平気な商社マン、そういう事実は知らず、きれいごとの中で生きる妻の姿を通して、日本の戦後の繁栄の裏に他国の犠牲があったことを、観客に見つめ直させようと試みている。
「朝鮮戦争特需のおかげで日本は経済復興を果たしたことを忘れている」とのセリフがあるが、それは「(復興を果たした)日本は、次はアジアの平和に貢献する義務があるのではないか」との、和田さんの訴えのように感じられる。
また、昨年日韓親善大使を務めた主演の藤原紀香さんは、「昨年アフガンを訪問したが、アフガンの子どもたちにとって、『米国の正義』とは何と辛いのだろうと思った。自分が感じたことを、この芝居で表現したい」と話している。作家と女優の思いは観客にどう伝わっただろうか。(L)