劇作家で演出家の岸田理生(きしだ・りお)さんが先月28日、大腸がんのために故郷・長野の病院で亡くなった。57歳だった。あまりにも若すぎる死に心が痛む。
理生さんは、学生時代に信州にやってきた故寺山修司と出会い、彼の主宰する演劇実験室・天井桟敷に参加、演劇活動を始めた。代表作「糸地獄」(岸田国士戯曲賞)、「終の棲家 仮の宿」(紀伊国屋演劇賞)などで高い評価を受け、まだまだ、これからの活躍が期待されていただけに残念でならない。
演劇集団・楽天座を率い、韓国との交流にも人一倍熱心だった。個性と個性がぶつかり合う韓国の演劇に魅了され、韓国と日本の俳優が競演する韓日合同演劇を実現させた。自ら韓国人が演出する戯曲「セオリ・チョッタ(歳月の恵み)」を執筆し、韓国や日本だけでなく、米国でも公演し大成功を収めるなど、韓日の演劇界に与えた影響は計り知れない。
気さくな人柄で、「今度、韓国の俳優とこんな芝居をやるのよ」と、たびたび弊社の東京本社を訪ねてきた。「韓国の人たちのパワーはすごい。一緒にやると元気がもらえる」と言っていたのを昨日のことのように思い出す。
「メロディアスでおもしろい」と、作品の中に韓国語のせりふを入れるなど、日本の演劇にはなかった新しい試みを行い、新風を吹き込んだことでもユニークな存在だった。作品は女性の細やかな心理を描いたものが多く、自身も感受性に富み、繊細な神経の持ち主だったが、外見からは想像もできないほどバイタリティーにあふれ、韓日の演劇交流に力を注ぐため、独学で韓国語をマスターしたほどの情熱家だった。
いま、韓日交流は文化、芸術をはじめ、さまざまな分野で花開き、かつてない友好関係が築かれている。これは、理生さんのような韓日の多くの人々の草の根交流が実を結んだ結果だと思う。合掌。(N)