先日、新日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会に出かけた。指揮・金聖響(33)、バイオリン・梁美沙(16)、コンサートマスター・崔文洙(35)。中心メンバーの3人とも在日であり、このような演奏会は初めてだった。
モーツアルトのバイオリン協奏曲3番とブラームスの交響曲2番を演奏したが、会場を埋めた1500人の聴衆は拍手喝采。時折笑みがもれるほど3人の息はぴったり合い、素晴らしい演奏だった。
クラシックファンは普段、欧米系の名前に慣れているが、パンフレットに書かれた金、梁、崔の名前をみてどう思っただろうか。年配のファンから「韓国の人のパワーはすごいね」ととても好意的な反応があった。どこの国の人ということよりも、素晴らしい演奏を聞かせてくれたからだろう。
芸術とはそういうものである。それでもこの3人をみて、いいなと思ったのは、3人とも本名を使っていることだ。だから在日と分かり親近感も覚える。
一番若い3世の美沙ちゃんをはじめ在日新世代に属する彼らは、みんな前向きで努力家だ。ボストン大学哲学科を卒業した俊才でもある金聖響さんは「常に勉強、常に前進」という考え方をする。崔さんはモスクワ音楽院を首席で卒業した英才であり、練習を欠かさない美沙さんは「小さいときからこの名前で通すと違和感がない」という。
在日の先輩バイオリニスト、丁讃宇さん(53)は、「弦には在日の響きがあると思う。ぜひ在日の楽団を組織してみたい」と語っていたが、これからはそんな夢のある世界が広がるのではないか。音楽だけでなく、いろいろな分野で在日3世の活躍が伝えられるようになっている。いまは先が見えない時代だが、在日は修練をつめばいろいろとチャンスをつかめる有利な場所にいる気がする。(S)