舞台、映画などで活躍し、”アングラの華”と呼ばれた在日韓国人3世の女優、金久美子さんが、胃がんのため亡くなった。45歳だった。昨年胃の摘出手術を受けたが、転移が進行して最後は施しようがなかったという。
最後の舞台は今年3月、都内のスタジオで上演された「アジアン・スイーツ」。やせ細った姿は痛々しかったが、舞台にこだわり続けた金さんらしく、心に傷を負った女性の役を熱演した。ラストのウエディングドレス姿は、独身だった金さんにぜひ着せたかったと、脚本の鄭義信さんがプレゼントしたという。
長野県生まれの金さんは、東京経済短大入学後、演劇活動と在日の学生サークルでの活動をこなした。
「在日は日本社会の中で自分の思いを表現する場がほとんどない。そういう自分たちの世代の表現の場が必要だと感じていた」と、話していたのを思い出す。また「隠すのは嫌」と、本名での女優活動にこだわった。83年、在日若手演劇人が集まった新宿梁山泊に所属。「千年の孤独」「映像都市」などのテント芝居でヒロインを演じ、人気を博す。
90年には韓国映画『狂った愛の詩』に出演、アジア太平洋映画祭で主演女優賞を獲得するなど、韓日の懸け橋の役割も担った。映画出演を機に韓国語の勉強を始め、韓国での一年余の生活が終わる頃には、通訳無しで会話が出来たという。すべてに頑張り屋だった
女優としての転機は、梁山泊を退団した96年。
「在日であることは自分の様々な要素の一つと思えるようになった。在日であるより前に、まず個としての自分を見つめ直し、より深い表現者になりたいと思った」と、在日として、女優として、新しい生き方を模索していたことを熱く語ってくれた。
女優としての成熟期を迎え、十朱幸代と共演した「マディソン郡の橋」など、達者な感情表現で存在感を示していただけに、早すぎる死が惜しまれる。遺作は来年公開予定の映画『またの日の、知華』(原一男監督)になる。合掌。(L)