「韓流」と呼ばれる空前の韓国エンタテインメントブームが続き、韓国語学習者も増えている。満足な韓国語学習書一つなかった時代を考えると隔世の感があるが、この韓国語学習の種まきの一人が、朝日カルチャーセンターやNHKハングル講座の講師として、30年間携わってきた金裕鴻さん(70)だ。
金さんは55年に来日、明治大学修士課程に通っていた。卒業後帰国する予定だったが、4月革命、軍事クーデターなど祖国での政治混乱が続き、帰国を思いとどまるよう両親に説得され、またNHK国際局アナウンサーに合格したことで、日本に留まろうと決意したという。
その金さんにこれまで韓国語を教わった日本人や在日韓国人は数知れない。詩人の茨木のり子さんもその一人だが、その茨木さんと金さんの師弟対談集「言葉が通じてこそ、友だちになれる 韓国語を学んで」(筑摩書房)が、先日発刊された。
「韓国語を通して文化理解を深めたいとの思いでやってきた。生徒とともに勉強する幸せ、一つ一つの積み重ねが蓄積されて実を結ぶ喜びを味わいながら、ここまで来た」と金さんは振り返っている。
茨木さんは、「夫に死に別れたつらい時期に、韓国語を学ぶことで、そのつらさから抜け出せた」と回想する。茨木さんはその後、『ハングルへの旅』を著し、その一部が日本の教科書に載り、韓国語への関心を広げる役割を果たした。
他にも韓国語入門書を書くまでになった医師の今井久美雄さん、インターネットで韓国の市民と交流する網谷雅幸さんら教え子たちは、各地で活動を続け、金さんのまいた種を花開かせている。
2日にはこれまでの受講生代表100人による「金裕鴻さんの古希を祝う会」が、都内で開かれる。地道な努力の積み重ねですそ野を広げ、韓国語が日本でしっかりと定着するきっかけを作った金さん。今後も韓国語を伝え続けてほしい。(L)