「切実な願いが吾に一つあり 争いのなき国と国なれ」
韓国の女流歌人・孫戸研(ソンホヨン)さんのドキュメンタリーが先日上映された。6月の韓日首脳会談で小泉首相が、韓日友好への願いを女流歌人・孫戸妍さんの歌に託すなど、故人の生涯が再び脚光を浴びている。
孫戸妍さんは、80年の人生で約2000首の歌を詠んだ。その神髄は韓国人の魂、誇り、そして祖国の美しさを日本の和歌で表現したことにある。
「もろともに同じ祖先を持ちながら、銃剣とれりここの境に」
同族同士が殺し合った韓国戦争の悲劇を詠んだ歌の一つだが、孫さん自身も父をこの戦争で失うという、辛い体験をしている。
しかし、若いころは日本の和歌を詠んだことで「親日派」と中傷され、嫌な思いも数多くしたという。多くの苦難を経て、やっと生活が落ち着いたと思ったら、83年に今度は夫が急逝。
「君よわが愛の深さをためさむと かりそめに目を閉じたまひしや」
亡き夫を偲んで詠んだこの歌は、究極の愛の象徴として、一連の歌の中でも最高の評価を受け、日本でも広く知られるようになった。
孫さんの歌を愛する人々が次第に周囲に集うようになり、その人たちの尽力で、97年に青森六ヶ所村に歌碑建立。98年には宮中和歌始に招待され、2000年には大韓民国花冠文化勲章を受章した。
晩年は本当に光り輝いていたように思う。
2001年、がんで闘病生活を送ることになるが、「死ぬ前に歌を韓国語で残したい」と李承信さんとともに翻訳し、出来たのが韓日対訳歌集「戸妍恋歌」だった。その完成を見届けたかのように2003年亡くなった。
「平和と人間愛」、この2つを生涯詠み続け、「無窮花とさくら」を真に愛でた歌人のことを、両国でもっと知ってほしい。(L)