レイ・チャールズ、アーサー・ミラーなど20世紀の巨星が相次いで亡くなっているが、91歳になってもなお奮闘している作家がいる。韓日近現代史の事件を、長年追ってきた角田房子さんだ。
旧日本軍人の生き様、満蒙開拓団の悲劇などを追ってきた角田さんは、80年代半ばから韓半島に眼を向けてきた。最初に取り組んだのは、日本軍による朝鮮朝末期の国母・閔妃暗殺事件である。
88年にその「閔妃暗殺」を出版すると大反響を呼び、韓国でも「日本の作家がよく書いてくれた」と、大変好感を持って迎えられたことを思いだす。同事件に巻き込まれて日本に亡命し、祖国からの刺客に殺された韓国軍人と日本人の妻の遺児、禹長春博士を題材にした次作「わが祖国」も話題を呼んだ。
禹長春の名は韓国では農業近代化に尽くした人として、教科書でも取り上げられている。しかし日本ではほとんど知られていない人物で、角田さんは禹博士の生涯を通して、韓日の不幸な歴史を浮き彫りにした。さらに、戦後半世紀経っても祖国に帰ることのできないサハリン残留韓国人の物語「悲しみの島サハリン」も出版、反響を呼んだ。
角田さんは最初、「日本人に書く資格があるのだろうか」と迷っていたが、「”臭いものにふた”の状態で、そのふたの上で韓国や在日の人と握手をしても心は通じない」との信念で取り組んだという。
そして最新作は、豊臣秀吉の朝鮮侵略をテーマにした小説である。この10年近く膨大な資料と格闘し続け、近く出版予定とのことだ。遺作となるのだろうが、今度はどんな切り口で描いているのだろうか待ち遠しい。
日本では最近、従軍慰安婦問題をめぐる報道で政治家の圧力があったかどうかが問題になっている。過去の歴史とどう向き合うか、角田さんの本はいつも、韓日間の歴史認識を考え、真相を知る上でも大いに参考になる。(L)