「留学生に学べ」「日本人の価値観を捨てろ」。アジアの留学生を受け入れる財団法人「アジア学生文化協会」(東京・本郷)を設立した故穂積五一氏(1902~81)が、留学生と共同生活する日本人学生に教えた言葉だ。
「留学生が日本に学びに来るのに、こちらが学ぶのは反対ではないのか?」
学生の疑問に穂積氏は、「日本とアジアの国々は民族、政治、文化、風習が違うだけでなく、歴史的に日本がアジアを侵略した過去を持っている。その日本に留学生はやって来る。日本人の価値観を捨てて相手を理解する努力をしなければ、真の信頼関係はできない」と答えたそうだ。この教えを実践すると、自然と留学生と仲良くなることができたと、現理事長の小木曽友氏は振り返っている。
同協会は、来年で創立50周年を迎える。学生寮であるアジア文化会館が出来たのは1960年。その学生寮の前身は1924年に建てられた至軒寮。穂積五一氏はそこに入寮してアジアの留学生と接した経験があった。
そして、日本とアジアの関係に強い関心を持ち、大学卒業後も就職活動はせず、留学生寮の建設に携わったのである。正義心の強い理想家で、日本のアジア侵略に反対。朝鮮独立運動を口にする朝鮮人学生にも理解を示し、植民地支配をわびたという。
穂積氏は生涯をアジアの留学生のために尽くし、81年に79歳で亡くなった。穂積氏に世話になった留学生はアジア各地におり、政府の要職についている人も少なくない。
「留学生に学べ」は、アジア各国の文化、歴史など多くを学び、人間関係を結ぶことを通じて、人間は対等であることを知ろうということだ。特に隣国である韓国・朝鮮、中国の歴史は知らないといけないと強調していたという。
日本で学ぶ留学生が15万人にもなり、一方でアジアとの関係改善が問われる今日、穂積氏の教えは、大きな示唆を与えてくれる。(L)