パッチギとは韓国語で「頭突き」を意味する。朝鮮学校生と日本の高校生の乱闘騒ぎが頻発した60年代から70年代前半、皮肉なことにパッチギという言葉は日本の高校生にも知られていた。通学の電車内で、「朝高生のパッチギにやられた」と言っていたのを聞いたことが思い出される。
そのパッチギという言葉に「突き破る、飛び越える」という思いを込めた井筒和幸監督の映画『パッチギ』(昨年公開)が、キネマ旬報ベストテン第1位、毎日映画コンクール日本映画大賞作品賞、日本アカデミー賞優秀作品賞などを受賞する高い評価を得た。
作品は1968年の京都を舞台に、日本の高校生と朝鮮学校生との対立や恋愛を描いたもので、日本の高校生と朝鮮学校の女子生徒を結びつけるのが「イムジン河」である。
当時、松山猛が作詞、フォーク・クルセダーズが歌って話題になったが、分断の悲劇がテーマという政治的問題で発売中止になった経緯がある。その松山が書いた自伝を原案に、井筒監督や李鳳宇プロデューサーが新たに書き加えて映画化した。
青春映画としての魅力がヒットの要因だが、もう一つ見落としてはならないのが、日本人と在日の間にある目に見えない壁だ。主人公たちの喧嘩や恋愛にも常にそれが影を落としていた。「どうすれば人は壁を越えられるか」が最大のテーマだ。
その壁とは今日、いろいろな形で残されている。しかし、いつかは突き破れるだろうことを、この作品は信じさせてくれる。それが観客に伝わったのだろう。
2月には韓国でも公開されるというが、在日がどうやって生きてきたかを本国の人々に知らせる一助になればと思う。反応が楽しみだ。(L)