25年かけて執筆した大河小説「土地」の著者、朴景利氏(パク・キョンリ、81)が死去した。全21巻。登場人物700人以上、名前をもった人物だけでも578人が登場する文字通りの大河小説である。小説は、日本の植民地支配の足音が強まる1897年から始まり、1945年の解放を迎え「マンセー(万歳)」を叫ぶ場面で終わる。
「わが民族の苦難を形象化した新たな歴史小説」と評価され、韓国大河小説の代名詞になった。韓国近現代史の痛みが染みこんだ本だ。
その後、黄ソギョン氏の「張吉山」(全10巻)、趙廷來(チョ・ジョンネ)氏の「太白山脈」(全10巻)、崔明姫(チェ・ミョンヒ)氏の「魂の火」(全10巻)が相次いで出版され、80年代から90年代にかけて大河小説が絶頂期を迎えた。
10年かけて完結した「張吉山」は、17世紀の朝鮮時代に広大(旅芸人)の子として生まれた伝説の英雄・張吉山が、義賊として庶民の苦しみを助ける姿を描いている。200万部を売るベストセラーになった。「太白山脈」は、解放後の48年に起きた麗水・順天反乱事件を素材に韓国戦争を経て分断の固定に至る悲劇を描いた傑作だ。映画にもなり、大ヒットした。
朴景利氏と同じ女流作家で、10年前に51歳で亡くなった崔明姫氏が17年かけて書いた「魂の火」は、植民地時代を背景に全羅北道・南原地方の崩れゆく宗家を守る嫁3代の人生をたどり、当時の風俗、風習を生き生きと再現している。
日本でも大河小説ファンは多い。だが、全巻翻訳出版された「太白山脈」を除き、これら韓国の大河小説に触れる機会はほとんどない。「土地」は8巻まで翻訳出版され絶版。「張吉山」も3巻まででこれも絶版状態。「魂の火」に至ってはまだ翻訳すらされていない。
かつては韓国小説は出版しても売れないという問題があった。だが、いまは韓流ブームで韓国はこれまでになく身近な存在だ。大河小説は韓国・韓国人をより深く理解する上で格好の教材であり、文学作品にももっと目をむけてほしい。(S)