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2009/06/19

<鳳仙花>◆詩人・金素月(キム・ソウォル)の再評価◆

 詩人・金素月(キム・ソウォル)といっても日本で知る人は少ないかもしれない。植民地時代を生きた詩人で、万人の郷愁を誘う抒情詩を得意とした。韓国のみならず北朝鮮でも学校教科書に詩が掲載され、韓半島では誰もが知る国民的詩人である。

 よきひとのうたごえは/こころにぞ濡れそぼる/暮れなづむ夕べの耳に/はた よるのゆめに秘むなる (岩波文庫・朝鮮詩集より)

 「うたごえ」と題する金素月の詩の一節である。韓国の若者は恋愛の告白の代わりに、思いを寄せる人に金素月の詩集を贈ることがあるという。

 その金素月の再評価が、いま韓国で進んでいる。5月下旬に金素月についてのシンポジウムが行われ、国内はもとより日本など国外からも詩人・大学教授などが参加した。詩碑の除幕式が行われ、詩集が再発刊されるなど関心が高まっている。韓国政府も金素月についての国際シンポジウム開催を計画しているそうだ。

 金素月は1902年、現在の北朝鮮・平安北道に生まれた。裕福な家庭だったが、父が暴力事件に巻き込まれ精神障害となったことで、彼自身も心に深い傷を負った。祖父の決めた女性と無理やり結婚させられ、日本の東京商科大学(現・一橋大学)に進むが、関東大震災を経験して中退。祖国に戻った。詩集『つつじの花』を発表し話題となるが、アヘンにおぼれ、34年、32歳で服毒自殺している。孤独と貧困の中で詩を書き続けた金素月は、日本、ロシア、中国の詩に接し、漢詩、日本語の詩も残した。男女の愛はもちろん、封建社会への批判、植民地下の民族の哀しみをうたいあげている。

 詩が日本語に翻訳しにくいことから、これまで紹介は限られていたが、日本語訳の刊行が現在進められているとのこと。韓日の研究者が協力して金素月に新たなスポットを当てられたら、韓日の文化交流促進にも有意義だろう。進展を期待したい。(L)