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2009/07/17

<鳳仙花>◆韓日文学交流の深化を◆

 60年代の韓国を代表する小説に崔仁勲(チェ・インフン)の「広場」がある。韓国戦争の最中、父が北へ行ったため、南に残った若者は辛い生活を強いられ北に逃げ出す。そして北の軍隊に入るが捕虜となるなどの曲折を経て、最後は自殺する。民族分断を生きる若者の悲劇を描き、韓国では読者の大きな共感を得た。

 この小説が日本で翻訳・紹介されたのは70年代初めのこと。分断国家である隣国の苦悩が伝わると高い評価を得た。一編の小説でその国、民族の状況が伝わるのは文学作品ならではだが、韓国への関心がまだ少なかった時代ゆえ、一般の反響は少なかった。

 その後、70年代半ばに詩人・金芝河(キム・ジハ)の詩集が翻訳されるなど、韓日の文学交流は一部識者や出版関係者の熱意で進められた。そして88年のソウル五輪、02年のW杯共催、そして韓流ブームを経て、テレビドラマの翻訳本などは増えたが、文学の翻訳はいまだ少ないのが現状だ。

 特に大河小説では、女流作家・朴景利(パク・キョンリ)の解放前後を舞台に「民族の苦難を形象化した」と評価された全21巻の「土地」が、80年代に最初の8巻のみ翻訳されたものの、その後は頓挫。韓国が激動した48年から分断が固定化されるまでを描いた趙廷來(チョ・ジョンネ)「太白山脈」のみが唯一、全巻翻訳されている。韓国で100万部を超えるベストセラーの多くが隣国で紹介されていないのは、残念である。

 こういう現状を打破しようと、韓国政府は01年に韓国文学翻訳院を設立し、韓国文学作品や児童図書の翻訳・出版を支援する活動に取り組んでいる。先日開かれた東京国際ブックフェアにも出展し、児童図書125冊を展示するなどして一定の反響を得たが、文学作品の翻訳活性化には時間がかかりそうだという。

 文学作品は社会や人間の深部を見つめ、異文化理解、そしてアイデンティティー確認にも大きな役割を果たす。韓国文学の翻訳が増大するよう力を発揮してほしい。(L)